浮気相手の子を「育てろ」と押しつけられたので、罪のない少女は丁重に育てつつ、夫だけを優雅に制裁することにしました
慎ましき婚礼の日
ただし、後日談がある。
還俗して婚約を交わし、結婚まで秒読みとなった頃。
スノーフレークは、メガエリス卿が連れてきた鑑定スキル持ちの正体が——なんと現国王陛下その人であったと知って、「早まったかもしれません」と目眩を起こしたそうだ。
その話を聞いて私は思わず苦笑した。
国王を私的な犯罪歴の鑑定に引っ張り出した。普通なら不敬罪ものである。
けれど当のメガエリス卿は、けろりとして、こう嘯いていたという。
「普段から、あの野郎……おっと、陛下には散々無茶を押しつけられておるのです。我が最愛のためにこれくらい、役に立っていただいて当然ですぞ。それに本人も乗り気で楽しそうでしたから、問題ないでしょう」
つまり、こういうことだ。
スノーフレークの元婚約者の伯爵家は、ある日突然、訪ねてきた騎士団長メガエリス卿と——あろうことか現国王陛下とを前にして震え上がった。
そして、鑑定によって暴かれた現当主の過去の性犯罪に白目を剥きながら、当主への制裁と幽閉、そしてスノーフレークへの年月分を加算した慰謝料をもって、示談という名の慈悲を受け入れたのだ。
「……裁判になっていたら、間違いなく、死刑と爵位没収でしたものねえ」
後にことの次第をすべて聞かされて、私はしみじみと呟いた。
我が国、アケロニア王国は性犯罪にことさら厳しいことで知られている。去勢は実際の断罪として今でも年に何件か執行されていると新聞に載る。
そして時効もない。そう、陛下を始めとした王族がたが鑑定スキル持ちのためだ。死刑の最終判決は例外なく、王族のどなたかが鑑定で判定した上で行うから、誤りもない。
今の王族は勇者の末裔と言われていて、人を見抜く能力はその遺伝とも言われていた。
示談で済ませてもらえただけ、あの一族は運がよかったというべきだろう。
メガエリス卿は潰すと決めたものを、本当に根こそぎ潰す男だった。
……まさか本当に物理的にやらかすとは私も思っていなかったけれど……
私は、晴れて伯爵夫人となる、一番の友のことを思った。
長い長い冬だった。
けれど、ようやくだ。ようやく、あなたにも雪解けの春が来たのね。
そう思うと、胸の奥がじんと熱くなった。
……まあ、春というか、暴走する嵐みたいな殿方だったけどね。
親友の旦那様なら今後もお付き合いが続く。
でも今後のスノーフレークの愚痴が、過去の忌まわしき被害じゃなくて旦那様のことになるなら、喜んで聞きたいと思った。
「………………」
私は紅茶を飲んで、しばらく思索に耽った。
さて、親友の件は片付いたし、結婚は早くも来月に迫っている。
籍は既に入れたと聞いた。式の前にって、つまりそういうことでしょう?
……誰よ、あの男が女嫌いとか言ったやつ。
その後をめどに、私は子爵家を出ようと計画を立て始めた。
そして訪れたリースト伯爵家での、当主メガエリス卿とスノーフレークの結婚は慎ましかった。
スノーフレークが派手で豪奢な結婚式を望まなかったのだ。
メガエリス様は四十路でも初婚の伯爵家当主だから、本当なら多数の貴族を招いた盛大な式にしなきゃいけなかった。
でも、この頃には新妻にメロメロの彼は自分の年齢を逆手にとって、「この年で派手な結婚式とか恥ずかしいのですぞ」などと言って、スノーフレークの希望を押し通した。強い。
そのため、式は質素倹約がモットーの王都神殿内の祭殿で行われて、参列者もスノーフレーク側は実家の弟と親友の私、そして義娘のリーゼのみ。
彼女が務めていた孤児院の孤児たちや関係者にはまた後日、報告に行く予定だとか。
リースト家は本家が伯爵家で、親族は同じリーストの家名で子爵家と男爵家がいくつかある。そこから当主夫妻と嫡子のみが参列した。
さすが美貌の一族、外部からの嫁や婿以外、男女揃ってメガエリス様そっくりの麗しの容貌に青銀の髪、ティールの瞳で壮観だった。
もっとも、スノーフレークも銀髪と菫色の瞳の楚々とした美しい女性なので、鍛えられた騎士のメガエリス様と新郎新婦で並ぶと実に神々しかった。
美男美女カップルにも程がある。
しかし一番驚いたのは、式にも、その後の宴会会場となった王都中心区のリースト伯爵家が運営する高級レストランにも、現国王のヴァシレウス陛下がご臨席されたことだ。
ああ、この方がメガエリス様に唆されて、楽しそうにスノーフレークの元婚約者の家に押しかけたという、あの……
ヴァシレウス陛下は黒髪黒目の、大変端正な顔立ちをした巨漢の美丈夫だ。確かまだ六十前だったはず。
メガエリス様の一回り以上年の離れた幼なじみだと聞かされている。
幼い頃から麗しの美貌のせいで人嫌い(女嫌いより酷かった!)のメガエリス様を、何かと理由をつけて側に置き、面倒を見ていたそうで。
「我が心の友メガエリスと、その最愛スノーフレーク夫人の前途を祝して――乾杯!」
まさかのヴァシレウス陛下の音頭に、会場は大盛り上がりだった。
スノーフレークも恐縮しながらも光栄そうで、今日ばかりは淑女のベールは脇に置いて満面の笑顔だった。
心の友と呼ばれたメガエリス様はものすごく渋い顔になっていたけど、そこはあえて見て見ぬ振りをした……
還俗して婚約を交わし、結婚まで秒読みとなった頃。
スノーフレークは、メガエリス卿が連れてきた鑑定スキル持ちの正体が——なんと現国王陛下その人であったと知って、「早まったかもしれません」と目眩を起こしたそうだ。
その話を聞いて私は思わず苦笑した。
国王を私的な犯罪歴の鑑定に引っ張り出した。普通なら不敬罪ものである。
けれど当のメガエリス卿は、けろりとして、こう嘯いていたという。
「普段から、あの野郎……おっと、陛下には散々無茶を押しつけられておるのです。我が最愛のためにこれくらい、役に立っていただいて当然ですぞ。それに本人も乗り気で楽しそうでしたから、問題ないでしょう」
つまり、こういうことだ。
スノーフレークの元婚約者の伯爵家は、ある日突然、訪ねてきた騎士団長メガエリス卿と——あろうことか現国王陛下とを前にして震え上がった。
そして、鑑定によって暴かれた現当主の過去の性犯罪に白目を剥きながら、当主への制裁と幽閉、そしてスノーフレークへの年月分を加算した慰謝料をもって、示談という名の慈悲を受け入れたのだ。
「……裁判になっていたら、間違いなく、死刑と爵位没収でしたものねえ」
後にことの次第をすべて聞かされて、私はしみじみと呟いた。
我が国、アケロニア王国は性犯罪にことさら厳しいことで知られている。去勢は実際の断罪として今でも年に何件か執行されていると新聞に載る。
そして時効もない。そう、陛下を始めとした王族がたが鑑定スキル持ちのためだ。死刑の最終判決は例外なく、王族のどなたかが鑑定で判定した上で行うから、誤りもない。
今の王族は勇者の末裔と言われていて、人を見抜く能力はその遺伝とも言われていた。
示談で済ませてもらえただけ、あの一族は運がよかったというべきだろう。
メガエリス卿は潰すと決めたものを、本当に根こそぎ潰す男だった。
……まさか本当に物理的にやらかすとは私も思っていなかったけれど……
私は、晴れて伯爵夫人となる、一番の友のことを思った。
長い長い冬だった。
けれど、ようやくだ。ようやく、あなたにも雪解けの春が来たのね。
そう思うと、胸の奥がじんと熱くなった。
……まあ、春というか、暴走する嵐みたいな殿方だったけどね。
親友の旦那様なら今後もお付き合いが続く。
でも今後のスノーフレークの愚痴が、過去の忌まわしき被害じゃなくて旦那様のことになるなら、喜んで聞きたいと思った。
「………………」
私は紅茶を飲んで、しばらく思索に耽った。
さて、親友の件は片付いたし、結婚は早くも来月に迫っている。
籍は既に入れたと聞いた。式の前にって、つまりそういうことでしょう?
……誰よ、あの男が女嫌いとか言ったやつ。
その後をめどに、私は子爵家を出ようと計画を立て始めた。
そして訪れたリースト伯爵家での、当主メガエリス卿とスノーフレークの結婚は慎ましかった。
スノーフレークが派手で豪奢な結婚式を望まなかったのだ。
メガエリス様は四十路でも初婚の伯爵家当主だから、本当なら多数の貴族を招いた盛大な式にしなきゃいけなかった。
でも、この頃には新妻にメロメロの彼は自分の年齢を逆手にとって、「この年で派手な結婚式とか恥ずかしいのですぞ」などと言って、スノーフレークの希望を押し通した。強い。
そのため、式は質素倹約がモットーの王都神殿内の祭殿で行われて、参列者もスノーフレーク側は実家の弟と親友の私、そして義娘のリーゼのみ。
彼女が務めていた孤児院の孤児たちや関係者にはまた後日、報告に行く予定だとか。
リースト家は本家が伯爵家で、親族は同じリーストの家名で子爵家と男爵家がいくつかある。そこから当主夫妻と嫡子のみが参列した。
さすが美貌の一族、外部からの嫁や婿以外、男女揃ってメガエリス様そっくりの麗しの容貌に青銀の髪、ティールの瞳で壮観だった。
もっとも、スノーフレークも銀髪と菫色の瞳の楚々とした美しい女性なので、鍛えられた騎士のメガエリス様と新郎新婦で並ぶと実に神々しかった。
美男美女カップルにも程がある。
しかし一番驚いたのは、式にも、その後の宴会会場となった王都中心区のリースト伯爵家が運営する高級レストランにも、現国王のヴァシレウス陛下がご臨席されたことだ。
ああ、この方がメガエリス様に唆されて、楽しそうにスノーフレークの元婚約者の家に押しかけたという、あの……
ヴァシレウス陛下は黒髪黒目の、大変端正な顔立ちをした巨漢の美丈夫だ。確かまだ六十前だったはず。
メガエリス様の一回り以上年の離れた幼なじみだと聞かされている。
幼い頃から麗しの美貌のせいで人嫌い(女嫌いより酷かった!)のメガエリス様を、何かと理由をつけて側に置き、面倒を見ていたそうで。
「我が心の友メガエリスと、その最愛スノーフレーク夫人の前途を祝して――乾杯!」
まさかのヴァシレウス陛下の音頭に、会場は大盛り上がりだった。
スノーフレークも恐縮しながらも光栄そうで、今日ばかりは淑女のベールは脇に置いて満面の笑顔だった。
心の友と呼ばれたメガエリス様はものすごく渋い顔になっていたけど、そこはあえて見て見ぬ振りをした……