浮気相手の子を「育てろ」と押しつけられたので、罪のない少女は丁重に育てつつ、夫だけを優雅に制裁することにしました
美味と暴露話2
その後は一口大の三角パイで様々なバリエーションのサーモンパイをいただいた。
会食のコース料理と違って、家の名物料理を中心にしたテーブルブッフェ方式で、客は食べたいものを給仕に合図する。
もっとも、次から次へと提供されてくるのだが。
鮭単体のものは赤ワインソースで。
旬の茸と合わせたものはクリームソース。
温野菜やチーズを入れてトマトソースでデニッシュ風に仕上げたものは、口当たりが良すぎてワインが進んだ。
肉料理も出てきたが、基本は鮭料理がメインだった。私もリーゼも、ここまで鮭づくしの宴会は初めてになる。
ヴァシレウス陛下の暴露ネタはまだ続いている。
「こやつは娼館に連れて行っても、まったく遊ばんのだ。一晩中控え室で小難しい本を読んだり、厨房で夜食を作っていたり。いやそんな男がこのように美しい伴侶を得るとは」
「……護衛でお供しただけでしょう。一緒に女遊びしてたら、誰が陛下を守るんですか」
「せっかく美姫が集まる高級娼館だったのに」
「いい加減、愛しの妻の前でそういう話、やめてもらえません!?」
あー……なるほど。メガエリス様の女嫌いの噂はこの辺りから来てると見た。
「お前、そんなだからこの歳までその面で童て……ぐおっ」
「………………」
もう反論を諦めたメガエリス様から、陛下がヘッドロックを喰らっている。本当に仲がいいのね。
ふとスノーフレークを見ると、頬を染めて俯きがちに照れている。
「旦那様は、その。私を最初で最後の女にしてくださるって」
「まあ。殺し文句じゃない」
私の隣ではリーゼが、自分のデビュタントしかお会いできなかった陛下とメガエリス様の愉快なやりとりに、目を白黒させている。
次第に、お酒を過ごされたヴァシレウス様からは、際どい話も飛び出してきた。
「最近は痴漢も減ってきたのか?」
「……少年期にヴァシレウス様より賜った教え通り、不届者は念入りに潰しております」
……なにを?
って、メガエリス様がスノーフレークの元婚約者を制裁したやり口って、元を辿れば陛下からの教え……?
メガエリス様と仲が良いのはヴァシレウス陛下だけではなかった。
何と、現在の宰相閣下であるグロリオーサ侯爵様まで駆けつけてきたのだ。
「陛下! 酷いではありませんか、メガエリスの婚儀に参加したいからって、私に仕事全部押し付けて!」
「仕方なかろう。重要案件ばかりで放置できなかったのだ」
「私とて式には参列したかったのですが!?」
「まあそう言うな、料理と酒ならまだ残っている。美味いぞ?」
「この後すぐ執務に戻るのに、飲めるわけがありません!!!」
宰相閣下は色味のない銀髪と、アイスブルーの瞳の、凍えるような色味の方だ。銀縁の眼鏡をかけた酷薄そうな四十絡みの殿方だけど……
あら? そういえばメガエリス様と同世代だわ。
閣下は遅刻を詫びた後で、レストラン内の参加者たち一家族につき一冊ずつ大判の冊子を配布した。私とリーゼにも一冊だ。
表紙にはこうある。
【リースト伯爵メガエリス ファンクラブ会報 成婚記念特別編】
「わたくしとメガエリス君は王都学園中等部からの付き合いになります。初めての出会いは入学式の後、主賓でお越しになっておられたヴァシレウス様と親しく世間話をしていたところに、父に連れられたわたくしが挨拶したのが始まり」
そう話し始めて、宰相閣下は冊子をめくるよう言った。
すると目次の次のページに、今の話にあった中等部の入学式の後と思しきカラー写真が掲載されている。写真は貴族でも日常的に使うには躊躇うほど高価な魔導具で、風景や人物そのままを紙に映し出せるものだ。
――まだあどけなさを残す、青銀の髪とティールの瞳の、制服を着た細身の少年の立ち姿がそこにはあった。
「ご覧の通り、メガエリス君は当時から大変麗しく、皆の人気者でした。成績こそ私が上でしたが、さすがは魔法一族の嫡子、輝く魔法剣を操り同級生ばかりか先輩たちまで薙ぎ倒す姿は実に見事で」
そこからは数ページに渡って、メガエリス様のプロフィールや剣術、魔法などスキルの解説が続いた。
宰相閣下は延々とメガエリス様を讃え、また自分たちの友情エピソードを披露している。
「彼が恋をするのはどんな少女だろう。友人と集まればそんな話ばかりしており、……まさかこの年まで独身を貫かれるとは思いもしませんでした。しかし、まさかの彼がようやく最愛の女性を射止めたと聞き、私は……私たちファンクラブの者は今日まで涙の晴れぬ日々を送りました……。メガエリス君。そしてスノーフレーク夫人。どうか……どうか、お幸せに……っ」
言い切って号泣した宰相閣下は、メガエリス様に店の外に蹴り出されていた。
待って、その方、この国の宰相様よ……!?
にしても、ファンクラブって。
思わずメガエリス様を見ると、本人はもう無の境地みたいなお顔になって、何事もなかったように席に戻っていた。
陛下は笑いを堪えきれなくてお腹を抱えているし、リースト伯爵家のご親戚たちは慣れたような顔で皆笑っているし。
その後、宰相閣下の侍従が今日の主役の新婦スノーフレークに包みを贈答した。
丁寧に梱包され、メガエリス様の髪と瞳の色のリボンまでかけられた百科事典並にぶ厚い『リースト伯爵メガエリス ファンクラブ会報総集編』を受け取ったスノーフレークは、死んだ魚みたいな目になっていた。
それ、ちょっと後で私も見てみたい。
「グロリオーサ侯爵はメガエリスのファンクラブ会長でな。……まあ、それほど害はないから安心するといい。夫人」
とヴァシレウス陛下がフォローを入れてくださったけど、正直あんまり安心できる要素はなかった。
ファンクラブ会報総集編を近くに控えていた侍女に渡し、スノーフレークの菫色の目が据わっている。
「ライバルに、宰相閣下も追加……」
私もまさか、ここまでおモテになる方とは思っていなかった。
「……どうしたら旦那様をモテなくできるのかしら」
「まあ、あのお顔だもの。髭でも生やしてみるとか?」
「採用」
「えっ」
シスター時代、孤児院で子供たちが良いアイデアを出すと、そう言ってよく褒めていた。同じ口調だ。
このときは冗談だと思っていたけれど。
それからしばらく経って、リースト伯爵家をお茶会で訪ねたときメガエリス様にご挨拶したら、髪と同じ青銀の口髭と顎髭があって、本当に驚いた。
しかもふわふわで、見るからに手触りが良さそうで。
ちなみに髭があっても、メガエリス様はやっぱり麗しくて、「相変わらずモテすぎて」とスノーフレークが虚無顔になっていた。
会食のコース料理と違って、家の名物料理を中心にしたテーブルブッフェ方式で、客は食べたいものを給仕に合図する。
もっとも、次から次へと提供されてくるのだが。
鮭単体のものは赤ワインソースで。
旬の茸と合わせたものはクリームソース。
温野菜やチーズを入れてトマトソースでデニッシュ風に仕上げたものは、口当たりが良すぎてワインが進んだ。
肉料理も出てきたが、基本は鮭料理がメインだった。私もリーゼも、ここまで鮭づくしの宴会は初めてになる。
ヴァシレウス陛下の暴露ネタはまだ続いている。
「こやつは娼館に連れて行っても、まったく遊ばんのだ。一晩中控え室で小難しい本を読んだり、厨房で夜食を作っていたり。いやそんな男がこのように美しい伴侶を得るとは」
「……護衛でお供しただけでしょう。一緒に女遊びしてたら、誰が陛下を守るんですか」
「せっかく美姫が集まる高級娼館だったのに」
「いい加減、愛しの妻の前でそういう話、やめてもらえません!?」
あー……なるほど。メガエリス様の女嫌いの噂はこの辺りから来てると見た。
「お前、そんなだからこの歳までその面で童て……ぐおっ」
「………………」
もう反論を諦めたメガエリス様から、陛下がヘッドロックを喰らっている。本当に仲がいいのね。
ふとスノーフレークを見ると、頬を染めて俯きがちに照れている。
「旦那様は、その。私を最初で最後の女にしてくださるって」
「まあ。殺し文句じゃない」
私の隣ではリーゼが、自分のデビュタントしかお会いできなかった陛下とメガエリス様の愉快なやりとりに、目を白黒させている。
次第に、お酒を過ごされたヴァシレウス様からは、際どい話も飛び出してきた。
「最近は痴漢も減ってきたのか?」
「……少年期にヴァシレウス様より賜った教え通り、不届者は念入りに潰しております」
……なにを?
って、メガエリス様がスノーフレークの元婚約者を制裁したやり口って、元を辿れば陛下からの教え……?
メガエリス様と仲が良いのはヴァシレウス陛下だけではなかった。
何と、現在の宰相閣下であるグロリオーサ侯爵様まで駆けつけてきたのだ。
「陛下! 酷いではありませんか、メガエリスの婚儀に参加したいからって、私に仕事全部押し付けて!」
「仕方なかろう。重要案件ばかりで放置できなかったのだ」
「私とて式には参列したかったのですが!?」
「まあそう言うな、料理と酒ならまだ残っている。美味いぞ?」
「この後すぐ執務に戻るのに、飲めるわけがありません!!!」
宰相閣下は色味のない銀髪と、アイスブルーの瞳の、凍えるような色味の方だ。銀縁の眼鏡をかけた酷薄そうな四十絡みの殿方だけど……
あら? そういえばメガエリス様と同世代だわ。
閣下は遅刻を詫びた後で、レストラン内の参加者たち一家族につき一冊ずつ大判の冊子を配布した。私とリーゼにも一冊だ。
表紙にはこうある。
【リースト伯爵メガエリス ファンクラブ会報 成婚記念特別編】
「わたくしとメガエリス君は王都学園中等部からの付き合いになります。初めての出会いは入学式の後、主賓でお越しになっておられたヴァシレウス様と親しく世間話をしていたところに、父に連れられたわたくしが挨拶したのが始まり」
そう話し始めて、宰相閣下は冊子をめくるよう言った。
すると目次の次のページに、今の話にあった中等部の入学式の後と思しきカラー写真が掲載されている。写真は貴族でも日常的に使うには躊躇うほど高価な魔導具で、風景や人物そのままを紙に映し出せるものだ。
――まだあどけなさを残す、青銀の髪とティールの瞳の、制服を着た細身の少年の立ち姿がそこにはあった。
「ご覧の通り、メガエリス君は当時から大変麗しく、皆の人気者でした。成績こそ私が上でしたが、さすがは魔法一族の嫡子、輝く魔法剣を操り同級生ばかりか先輩たちまで薙ぎ倒す姿は実に見事で」
そこからは数ページに渡って、メガエリス様のプロフィールや剣術、魔法などスキルの解説が続いた。
宰相閣下は延々とメガエリス様を讃え、また自分たちの友情エピソードを披露している。
「彼が恋をするのはどんな少女だろう。友人と集まればそんな話ばかりしており、……まさかこの年まで独身を貫かれるとは思いもしませんでした。しかし、まさかの彼がようやく最愛の女性を射止めたと聞き、私は……私たちファンクラブの者は今日まで涙の晴れぬ日々を送りました……。メガエリス君。そしてスノーフレーク夫人。どうか……どうか、お幸せに……っ」
言い切って号泣した宰相閣下は、メガエリス様に店の外に蹴り出されていた。
待って、その方、この国の宰相様よ……!?
にしても、ファンクラブって。
思わずメガエリス様を見ると、本人はもう無の境地みたいなお顔になって、何事もなかったように席に戻っていた。
陛下は笑いを堪えきれなくてお腹を抱えているし、リースト伯爵家のご親戚たちは慣れたような顔で皆笑っているし。
その後、宰相閣下の侍従が今日の主役の新婦スノーフレークに包みを贈答した。
丁寧に梱包され、メガエリス様の髪と瞳の色のリボンまでかけられた百科事典並にぶ厚い『リースト伯爵メガエリス ファンクラブ会報総集編』を受け取ったスノーフレークは、死んだ魚みたいな目になっていた。
それ、ちょっと後で私も見てみたい。
「グロリオーサ侯爵はメガエリスのファンクラブ会長でな。……まあ、それほど害はないから安心するといい。夫人」
とヴァシレウス陛下がフォローを入れてくださったけど、正直あんまり安心できる要素はなかった。
ファンクラブ会報総集編を近くに控えていた侍女に渡し、スノーフレークの菫色の目が据わっている。
「ライバルに、宰相閣下も追加……」
私もまさか、ここまでおモテになる方とは思っていなかった。
「……どうしたら旦那様をモテなくできるのかしら」
「まあ、あのお顔だもの。髭でも生やしてみるとか?」
「採用」
「えっ」
シスター時代、孤児院で子供たちが良いアイデアを出すと、そう言ってよく褒めていた。同じ口調だ。
このときは冗談だと思っていたけれど。
それからしばらく経って、リースト伯爵家をお茶会で訪ねたときメガエリス様にご挨拶したら、髪と同じ青銀の口髭と顎髭があって、本当に驚いた。
しかもふわふわで、見るからに手触りが良さそうで。
ちなみに髭があっても、メガエリス様はやっぱり麗しくて、「相変わらずモテすぎて」とスノーフレークが虚無顔になっていた。