金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
詩月の奏でる「別れの曲」は、ただ美しく哀愁漂う調べではなかった。

優しく穏やかではあるけれど、諦めてはいない。

どこか、吹っ切ったような前を向いた、清々しさを感じさせた。

ビアンカは詩月はもう、郁子のことも、郁子の母親のことも引きずってはいないのだと思えた。

曲を弾き終えて、詩月は言った。

「やはり、ショパンは難しいな。感情を入れ過ぎると、あの人の、父さんのショパンを意識してしまう」

詩月は自嘲気味に笑った。

だが、その顔に卑屈さはない。

寧ろ、誇らしさが滲んでいた。

「詩月。これ、配信していいの?」

ビアンカが不安げに訊ねる。

「そのつもりで弾いたんだけど、何か問題があった?」

詩月はビアンカの心配をよそにあっけらかんとしていた。

「父さんも何とか復帰して頑張っているし、封印している理由がなくなった、解禁だろ」

詩月は宗言うと、微かに笑みを浮かべた。
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