金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
「娘がピアノを習い始めるので」

「そう、それは良かったです」

詩月はピアノの調律、修理を依頼される時、いつも思うことがある。

このピアノにもう1度、新品同様の音色の輝きを甦らせて依頼主に届けたいと。

どんな状態のピアノだろうと、修理する以上は笑顔になってもらいたいと。

果たして、目の前にあるピアノが元の音を取り戻せるのか、今は判らない。

「あの……ピアノを弾いてみても」

依頼主と先輩調律師、双方に問いかける。

トラックが到着するまでには未だ時間がある。

詩月は修理する前のピアノの音色を確かめておきたかった。

依頼主は仏頂面、先輩調律師は「ああ」と無表情に答えた。

詩月が弾き始めたのは「The Rose」ーー。

詩月はこの曲を自分のスマートフォンの着信音にしている。

英語でのタイトルは「The Rose」だが、日本語のタイトルは「愛は花・君はその種子」だ。
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