金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
ーーうわっ、本気の演奏!?

小百合は安坂の演奏に戸惑いつつも、懸命に喰らいついた。

「誰、あいつら?」

「女子の方は9月に留学してきた学生で、男の方は確か修士課程(ディプロマ)の学生だろ」

「ん! あいつ、詩月とブラームスコンクールで『雨の歌』を演奏した奴じゃないか」

「へぇ〜。あの子、何処までやれるかな」

興味本意で聴く学生が増える中、小百合は「演奏は自分自身が楽しむことだ」と自分自身の胸に言い聞かせた。

いつのまにか安坂の演奏がどうとか、誰が何を言おうが関係なくなっていった。

演奏するのがただただ楽しいと思えるようになった時、安坂が演奏を中断して言った。

「なかなか、やるな。えーと……千住小百合だよな」

小百合は安坂が自分を憶えていたことが嬉しかった。

安坂が留学して3年余り。

小百合は横浜のカフェ・モルダウの常連だった。

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