金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
安坂は「けど……周桜がこんなことを言っていた」と続けて話し出した。

詩月は緒方に「愛している」と言ったことはある。

だが、「愛している」と言ってよかったのかを考えると、言わなければよかったと思う。

難病指定された先天性の心臓病で、運動制限や食事制限、水分制限もし、常に用心しながら体調管理をしている体だ。

結婚し、家庭を持ち、果たして普通の家庭を築けるかどうかも定かではない。

詩月は家族だけではなく周囲の様々な理解がなければ、まともな生活はできないに違いないと思っている。

緒方の母親から「付き合わせない」「近づかないで」「関わらないで」と言われてはぐうの音も出ない。

だが、自分が緒方の夢を潰したとは思わない。

ピアニストになるのを目指し、共に切磋琢磨してきた。

緒方に「追いかけてこい」と言った気持ちに後悔はない。


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