金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
聞くのは野暮というものだ。

きっと自覚すらないだろうと。

だが、確実に詩月と小百合の距離は縮まっていると、信じたかった。

「詩月、始める?」

ビアンカが機材の準備を整え終えて、演奏開始を促す。

詩月はピアノの前に進み、スタンバイする。

「天気が良いなら、街頭で演奏したいところだけれど」

ふと、漏らす。

街頭演奏は詩月の原点だ。

街頭で思い切り、演奏したいと思うのは本音だろう。

「そうだね」

ビアンカは詩月の顔を見つめる。

「詩月、いつでも始めていいよ」

ビアンカが言い終わるが早いが、曲を奏で始めた。

ビアンカが「あっ……」と驚いたように、呟き顔を上げた。

詩月が奏で始めたのは、ショパンだった。

詩月が普段は決して演奏しようとはしない「ショパン」だ。

ショパン練習曲作品10第3番ホ長調「別れの曲」を奏でる。
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