金木犀の奏鳴曲(ソナタ)
「……詩月」

ビアンカは吐息のように呟いた。

詩月の父、ピアニスト周桜宗月が得意とするショパン。

宗月が事故で大怪我をし、ようやく復帰し、コンサート活動を始めて未だ間もない。

詩月は未だ数年は、ショパンを演奏しないと思っていた。

それに、詩月は父への強いコンプレックスがあり、ショパンには苦手意識を持っている。

その詩月がショパンを奏ででいることが、信じられなかった。

「別れの曲ーーとはまた」

ビアンカは呟いて、詩月の中で緒方郁子との仲はもう、終わっているんだと思った。

緒方の選択は応援するーー詩月は何度も言っている。

郁子からの電話が1ヶ月越し、2ヶ月越しと間を置いてかかってくるたび、どんな気持ちだろうと思う。

詩月は気にしていないと言いながら、郁子の母親から突きつけられた辛辣な言葉を忘れてはいないだろうと、気の毒にさえ思う。
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