君の隣で、私になれた
第29話「逃げんな」
ーーー授業終わり。
ーー莉桜side.
文学部。
教室を出た。
廊下を歩く。
前から歩いてくる人と目が合った。
琉生。
心臓が小さく跳ねる。
また避けなきゃ。
そう思って足を速めた。
「莉桜」
名前を呼ばれる。
立ち止まる。
ゆっくり振り返る。
「……。」
「少しだけ話せる?」
断れなかった。
中庭。
人の少ないベンチ。
並んで座る。
沈黙。
風だけが吹いていた。
何を言えばいいのか分からない。
そんな私より先に琉生が口を開いた。
「噂、関係あるんだろ」
胸が苦しくなる。
琉生はすべて気付いてた。
私は俯く。
「……。」
「やっぱり。」
「湊さん?」
返事はできなかった。
でも。
黙ったままの私を見て。
琉生はそれ以上聞かなかった。
「……ごめん」
やっと出た言葉。
「でも避けなきゃと思って…」
「だから……」
「ごめんなさい」
琉生は小さく首を振る。
「謝んな」
その一言だけで。
胸がいっぱいになる。
「でも…噂になったら…」
「また湊が……」
最後まで言えなかった。
琉生は静かに息を吐く。
「分かってる」
「全部じゃないけど大体は分かる」
その言葉に。
少しだけ救われた。
何も説明していないのに。
この人だけは。
分かってくれていた。
「でもさ。」
「このまま逃げ続けても…」
「お前が苦しいだけだろ」
「……っ」
図星だった。
苦しかった。
毎日のように嘘をついて。
みんなを避けて。
笑って。
全部。
苦しかった。