愛とか恋とかウザいので
すると、その中に萌依がよく知るふたりの姿があった。
「朝比奈君、おはよう」
目が合うなり、腕組みをして壁に体を預けていた男性が声をかけてきた。階数ボタンの前に立っているもうひとりの男性も、萌依に
「おはよう」と声をかける。
このハルモニアの社長である早瀬蒼弥と、先輩秘書の渥美浩二郎だ。
ちなみに社長秘書は、この渥美と、ベテラン社員である塩井達紀。
どちらも秘書としての業務は完璧で、萌依はそのふたりの下でサポート役を務めている。
「社長、渥美さん、おはようございます」
蒼弥が首の動きで乗るように促してくれたので、萌依は挨拶をしてエレベーターに乗り込む。
渥美がボタンを押し、ドアが閉まる。
上昇していくエレベーターの中で、萌依は見るともなしに蒼弥を見た。
スタイルよく三つ揃いのスーツを着こなし、左手首から覗く腕時計はもちろんハルモニアの商品だ。
ハルモニアの歩く広告塔と囁かれることもある蒼弥は、薄い唇は柔らかな微笑みの形を作り、スッキリとしたフェイスラインと鼻筋が美しい彼は、切れ長の二重の目のバランスもよく、『甘いマスクのイケメン』という言葉が似合いそうなものだ。だけど我の強さを隠さない、意思の強そうな眼差しが、顔立ちの甘い雰囲気を中和させている。
とろりと甘いハニーシロップではなく、ほろ苦さを含んだビターチョコといった感じだろうか。
ビジネスにおいてもそれはいえることで、蒼弥は、柔和な笑顔と遊び心ある発言で人の心を惹き付け、必要があれば鋭い角度から切り込んで業務改革を推進していく。
蒼弥が社長に就任した際、一部の腹黒な古参役員は、『血筋に恵まれただけの御曹司』と彼を侮り、前社長と同じように、適当なことを言って機嫌を取り、引き続き私腹を肥やそうとしていた。その結果、油断して手の内を見せすぎて、蒼弥に足下を掬われて辞職を余儀なくされたというのは社内では有名な話だ。
まさに完璧御曹司。
年齢は確か、二十七歳の萌依より七つ年上の三十四歳のはず。
欠点がなさ過ぎて、萌依は彼をどこか別次元の存在のように感じているが、仕事に支障はないので気にしないことにしている。
「それは?」
渥美が、萌依の手元に視線を向けて言う。
「企画部の方から社長にと預かったのですが、不要な情報も含まれているようなので、一度精査させていただきます」
素っ気なく答える萌依の言葉に、渥美がニヤリと笑う。
「中に、女性社員の連絡先でも書いてあった?」
「え!」
どうしてわかっただろう。
「本当に、そうだったの?」
驚く萌依に、渥美も目を丸くする。どうやらさっきの発言は、彼の冗談のだったらしい。
蒼弥が前職から引き抜いたという渥美は、もとは気心の知れた同僚だったためか、蒼弥の前でも冗談を言うことがある。
「相変わらずモテモテだな」
渥美がニヤリと笑うと、蒼弥は眉間に皺を刻む。
「迷惑だから捨ててくれ」
完璧御曹司である蒼弥は、独身ということもあり女性人気がとても高い。そのため強引なアプローチを受けることも多く、こういう時、心底煩わしそうな顔をする。
「さすが。モテる男は、言うことが違うな」
もとは同僚の気軽さで、渥美が蒼弥を茶化す。
蒼弥は睨むことで渥美を黙らせようとするが、渥美は気にしない。それどころか、萌依相手に面白そうに話しを続ける。
「朝比奈さん、知ってる? 今でこそ社長になっておとなしくしているけど、迷惑なぐらいモテるのをいいことに、早瀬社長も若い頃は、女をとっかえひっかえして遊び歩いていたんだよ」
「はあ……」
どう答えたらいいかわらず、朝比奈は曖昧に頷く。
ニヤニヤしている渥美の話しをどこまで信じていいのかは不明だが、蒼弥が迷惑するくらい女性にモテていたというのは事実だろう。
恋に泣かされる側である萌依とは、真逆の人生だ。
「渥美、いい加減にしろ」
エレベーターが指定の階に到着すると、壁に軽く体重を預けていた蒼弥は、渥美を注意してエレベーターを下りていく。
彼の動きに合わせて、森林を思わせる上品な香りが微かに漂うのを感じながら、萌依と渥美もそれに続く。
「朝比奈君、おはよう」
目が合うなり、腕組みをして壁に体を預けていた男性が声をかけてきた。階数ボタンの前に立っているもうひとりの男性も、萌依に
「おはよう」と声をかける。
このハルモニアの社長である早瀬蒼弥と、先輩秘書の渥美浩二郎だ。
ちなみに社長秘書は、この渥美と、ベテラン社員である塩井達紀。
どちらも秘書としての業務は完璧で、萌依はそのふたりの下でサポート役を務めている。
「社長、渥美さん、おはようございます」
蒼弥が首の動きで乗るように促してくれたので、萌依は挨拶をしてエレベーターに乗り込む。
渥美がボタンを押し、ドアが閉まる。
上昇していくエレベーターの中で、萌依は見るともなしに蒼弥を見た。
スタイルよく三つ揃いのスーツを着こなし、左手首から覗く腕時計はもちろんハルモニアの商品だ。
ハルモニアの歩く広告塔と囁かれることもある蒼弥は、薄い唇は柔らかな微笑みの形を作り、スッキリとしたフェイスラインと鼻筋が美しい彼は、切れ長の二重の目のバランスもよく、『甘いマスクのイケメン』という言葉が似合いそうなものだ。だけど我の強さを隠さない、意思の強そうな眼差しが、顔立ちの甘い雰囲気を中和させている。
とろりと甘いハニーシロップではなく、ほろ苦さを含んだビターチョコといった感じだろうか。
ビジネスにおいてもそれはいえることで、蒼弥は、柔和な笑顔と遊び心ある発言で人の心を惹き付け、必要があれば鋭い角度から切り込んで業務改革を推進していく。
蒼弥が社長に就任した際、一部の腹黒な古参役員は、『血筋に恵まれただけの御曹司』と彼を侮り、前社長と同じように、適当なことを言って機嫌を取り、引き続き私腹を肥やそうとしていた。その結果、油断して手の内を見せすぎて、蒼弥に足下を掬われて辞職を余儀なくされたというのは社内では有名な話だ。
まさに完璧御曹司。
年齢は確か、二十七歳の萌依より七つ年上の三十四歳のはず。
欠点がなさ過ぎて、萌依は彼をどこか別次元の存在のように感じているが、仕事に支障はないので気にしないことにしている。
「それは?」
渥美が、萌依の手元に視線を向けて言う。
「企画部の方から社長にと預かったのですが、不要な情報も含まれているようなので、一度精査させていただきます」
素っ気なく答える萌依の言葉に、渥美がニヤリと笑う。
「中に、女性社員の連絡先でも書いてあった?」
「え!」
どうしてわかっただろう。
「本当に、そうだったの?」
驚く萌依に、渥美も目を丸くする。どうやらさっきの発言は、彼の冗談のだったらしい。
蒼弥が前職から引き抜いたという渥美は、もとは気心の知れた同僚だったためか、蒼弥の前でも冗談を言うことがある。
「相変わらずモテモテだな」
渥美がニヤリと笑うと、蒼弥は眉間に皺を刻む。
「迷惑だから捨ててくれ」
完璧御曹司である蒼弥は、独身ということもあり女性人気がとても高い。そのため強引なアプローチを受けることも多く、こういう時、心底煩わしそうな顔をする。
「さすが。モテる男は、言うことが違うな」
もとは同僚の気軽さで、渥美が蒼弥を茶化す。
蒼弥は睨むことで渥美を黙らせようとするが、渥美は気にしない。それどころか、萌依相手に面白そうに話しを続ける。
「朝比奈さん、知ってる? 今でこそ社長になっておとなしくしているけど、迷惑なぐらいモテるのをいいことに、早瀬社長も若い頃は、女をとっかえひっかえして遊び歩いていたんだよ」
「はあ……」
どう答えたらいいかわらず、朝比奈は曖昧に頷く。
ニヤニヤしている渥美の話しをどこまで信じていいのかは不明だが、蒼弥が迷惑するくらい女性にモテていたというのは事実だろう。
恋に泣かされる側である萌依とは、真逆の人生だ。
「渥美、いい加減にしろ」
エレベーターが指定の階に到着すると、壁に軽く体重を預けていた蒼弥は、渥美を注意してエレベーターを下りていく。
彼の動きに合わせて、森林を思わせる上品な香りが微かに漂うのを感じながら、萌依と渥美もそれに続く。