愛とか恋とかウザいので
 小走りにふたりを追い越して社長室のドアを開けると、先に出勤しいていた塩井が顔を上げた。

「社長、おはようございます。さっそくで申し訳ないのですが……」

 塩井はデスクから立ち上がり、タブレットを手に蒼弥に歩み寄る。
 なにか急ぎの案件があるらしい。
 声をかけられた蒼弥は、立ち止まり、渥美の話しに耳をかたむける。
 どうやら、海外企業から急ぎの問い合わせがあったらしい。
 蒼弥はそのまま、渥美と共に自分専用の執務室へと入っていく。
 自分のデスクに座った萌依は、荷物を邪魔にならない場所に置き、いつものルーティンとして、まずはメールのチェックから始めていく。
 そのまま仕事をしていた萌依は、集中が途切れたのを感じて、軽く伸びをした。
 時刻を確認しようと、傍らに置いてあったスマートフォンに目をやった萌依は、そこに表示されていた文字に目を丸くした。

「えっ!」

 思わず漏れた驚きの声と共に、スマホが手から滑り落ちて床を転がる。
 慌ててそれを拾うとして、近くに置いてあったファイルを床に落としてしまい、硬質な音が静かなオフスに響く。

「大丈夫か?」

 立て続けの騒々しい音に、自分のデスクで仕事をしていた塩井が顔を上げた。

「すみません。大丈夫です」

 そう返事をした萌依は、再度スマホに表示されている文字を目で追う。
 マナーモードにしてあるので気付かなかったが、いつの間にか、メッセージが届いていた。
 発信者は水谷仁美(みずたにひとみ)という、萌依の元同僚で、転職後も変わらず仲良くしている友人だ。
 普段からメッセージのやり取りをしているし、今度の日曜日に彼女の結婚式があり、萌依もそれに招待されているので、その頻度はいつもより高いくらいだ。
 それなのに萌依が仁美からのメッセージに驚いたのは、メッセージの冒頭の文章に【ごめん! 加茂亨介(かもきょうすけ)のことで、謝りたいことがあるの】と、あったからだ。

(どうして今頃になって、仁美がその名前を……)

 加茂亨介。忘れたくても忘れられない元カレの名前に、萌依は胃の底を、ヤスリで擦られたような不快感を覚えた。

「どうかしたのか?」

 スマホをフリーズする萌依に、今度は渥美が声をかけてきた。
 時刻は十時少し過ぎたところだ。始業からずっと集中していたので、一度、休憩を取ってもいいだろう。

「えっと……、少し休憩をもらってもいいですか?」

 萌依の言葉に塩井は頷き、そのついでに総務部を覗いて、郵便物がないか確認してきてほしいと言う。
 萌依は、「わかりました」と返事して社長室を後にした。
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