この恋心を悟られてはいけない
ヴェルデが城内に入るのはこれで三度目だ。
一度目は王都に来たばかりの頃。スリから助けてくれた騎士が怪我の手当てをするからと中に招いてくれたのだ。そして二度目は前の店をクビになるキッカケとなった事件の取り調べ。
原因はタバコの不始末による発火だった。
事件性はないと判断が下されたものの、火がかなり大きく燃え上がり、怪我人も多く出たため、少し大ごとになったのだ。
ヴェルデはその時、折れた柱が背中に当たり傷を負った。当時のオーナーが引退したのもやはりこの時の火事が原因だった。
オーナー交代と店の立て直しにより、スタッフの選定が始まり、解雇に至った——と。
取り調べに向かっている間も給料と見舞金が出たことだけが救いだった。あの時のように細い通路を通りながら、小さな部屋に通される。
「こちらで少しお待ちください」
ヴェルデはアンセルと横に並びながら、先ほどの会話の続きを始めた。
「ライト、シンプルなデザインがいいですよね」
「ああそうだな。それでいて他の部屋のと被らないのな」
「今まで使ってたのは鳥のデザインだったので同じのがいいですかね?」
「近々あの部屋に騎士が入るだろうし、犯罪が起こった部屋と思われるとイメージが悪いから変えた方がいい……いや、ここはまるで同じデザインの物を用意するべきか?」
「何でですか?」
「だって燃えるだろ」
「すみません、よくわかりません」
首を傾げれば、アンセルは背徳感が〜と語り出す。変なスイッチを押してしまったようだ。
アンセルが経営する店は王都の酒場でも活気があり、それは美人揃いのホールスタッフとアンセルのこだわりの強さによって成り立っている。
彼の手腕はヴェルデもよく理解しているのだが、彼の思考にはなかなかついていけないところがある。特に燃えるだの萎えるだのの話はトンとダメだ。早口で語るアンセルを受け流す。
アンセルとて誰かに話すことで自分の中の意見を固めたいだけで、他人の意見が欲しいわけではないのだ。はいはい、と適当に相槌を打っていると、別の声が会話に混ざった。
「その鳥、緑色ではないか? って君がなぜここに……」
振り向けば、そこには騎士団服をまとった高身長の男性が立っていた。
薄紫の髪は今にもドア枠にぶつかってしまいそうなほど。黄金にきらめく瞳はヴェルデを見据えている。襟元には四枚の花弁が描かれたバッチがつけられている。この国では騎士団の階級をバッチの花弁の枚数で表す。
見習いは一枚で、騎士団全員をまとめる総司令官は五枚。四枚といえば近衛騎士か騎士団長クラスである。想像よりもずっと偉い人が来てしまったとヴェルデは緊張で身を固める。
おそらく貴族。だがヴェルデは目の前の男性を知っている。
一度目は王都に来たばかりの頃。スリから助けてくれた騎士が怪我の手当てをするからと中に招いてくれたのだ。そして二度目は前の店をクビになるキッカケとなった事件の取り調べ。
原因はタバコの不始末による発火だった。
事件性はないと判断が下されたものの、火がかなり大きく燃え上がり、怪我人も多く出たため、少し大ごとになったのだ。
ヴェルデはその時、折れた柱が背中に当たり傷を負った。当時のオーナーが引退したのもやはりこの時の火事が原因だった。
オーナー交代と店の立て直しにより、スタッフの選定が始まり、解雇に至った——と。
取り調べに向かっている間も給料と見舞金が出たことだけが救いだった。あの時のように細い通路を通りながら、小さな部屋に通される。
「こちらで少しお待ちください」
ヴェルデはアンセルと横に並びながら、先ほどの会話の続きを始めた。
「ライト、シンプルなデザインがいいですよね」
「ああそうだな。それでいて他の部屋のと被らないのな」
「今まで使ってたのは鳥のデザインだったので同じのがいいですかね?」
「近々あの部屋に騎士が入るだろうし、犯罪が起こった部屋と思われるとイメージが悪いから変えた方がいい……いや、ここはまるで同じデザインの物を用意するべきか?」
「何でですか?」
「だって燃えるだろ」
「すみません、よくわかりません」
首を傾げれば、アンセルは背徳感が〜と語り出す。変なスイッチを押してしまったようだ。
アンセルが経営する店は王都の酒場でも活気があり、それは美人揃いのホールスタッフとアンセルのこだわりの強さによって成り立っている。
彼の手腕はヴェルデもよく理解しているのだが、彼の思考にはなかなかついていけないところがある。特に燃えるだの萎えるだのの話はトンとダメだ。早口で語るアンセルを受け流す。
アンセルとて誰かに話すことで自分の中の意見を固めたいだけで、他人の意見が欲しいわけではないのだ。はいはい、と適当に相槌を打っていると、別の声が会話に混ざった。
「その鳥、緑色ではないか? って君がなぜここに……」
振り向けば、そこには騎士団服をまとった高身長の男性が立っていた。
薄紫の髪は今にもドア枠にぶつかってしまいそうなほど。黄金にきらめく瞳はヴェルデを見据えている。襟元には四枚の花弁が描かれたバッチがつけられている。この国では騎士団の階級をバッチの花弁の枚数で表す。
見習いは一枚で、騎士団全員をまとめる総司令官は五枚。四枚といえば近衛騎士か騎士団長クラスである。想像よりもずっと偉い人が来てしまったとヴェルデは緊張で身を固める。
おそらく貴族。だがヴェルデは目の前の男性を知っている。