この恋心を悟られてはいけない


「ヴェルデちゃん、酒追加!」
「は〜い」
「こっちも!」
「はいはい〜」
「今日のつまみは?」
「いつものと、この前試作品で出したやつ、あと新作が一つですね」

 ヴェルデは酒を運びながら、メニューをテーブルにスライドさせる。
 するとそこに男達は群がって口々に「俺はこれ」「これ食いたい」「これ美味そう」だの指をさしていく。それらを注文票に書き加えながら、隣のテーブルの上を片付ける。
 
 他のホールスタッフはよくやるわ……と呆れた視線を注ぎながら、それぞれの客を待つ。
 
 ここは酒場だが、ホールスタッフの主な収入源は今しがたヴェルデがしているような仕事ではない。
 メインは二階の個室で身体を使って稼ぐことによって発生するお金の方。
 
 といってもこの店は娼館ではない。
 国側に『娼館』として認められるのは、いわゆる高級娼婦・高級男娼と呼ばれる人達が所属する店のみ。ほとんどの店は酒場兼宿屋として営業している。

 運営方針も様々で、この店の場合は身体を売る・売らないはスタッフの意思に委ねられている。

 決められた値段で相手をするのではなく、スタッフが納得すれば二階の宿に誘ってもらえるシステムになっているのだ。

 客とスタッフの直接的な金銭取り引きは禁止されており、代わりに酒のオーダーが入った際には原価を抜いた額のほとんどがスタッフに還元される仕組みになっている。

 スタッフと夜を共にしたければ、高い酒を入れればいいのだ。
 もちろん、高い酒を入れたからといって必ずしも選ばれるわけではないが。

 逆にスタッフに嫌われる客もいる。
 出禁になるような迷惑客ではないものの、大した金を落とさない客——それがヴェルデが対応している常連客達だ。

 他の客が頼むような銀貨や金貨を出すような酒はほとんど頼まず、二階を利用したことも利用する気もない。


『愛想をよくしたところで見返りもない安客の相手をしてられるか』

  他のスタッフの言い分である。
 あくまでも酒のオーダーは追加報酬であり、固定の給料は用意されている。だが酒場で働く女性達は皆、金を稼ぎにきているのだ。より良い稼ぎ方があるのならば、そちらを取るのも仕方がない。

 店の仕組みを理解した上で働いているのに、頑として身体を売りたがらないヴェルデが例外なだけなのだ。彼女達の考えとやり方を否定するつもりはない。

 それは常連客達も同じ。
 ヴェルデがこの店に来るまで、彼らはスタッフから煙たがられて店の奥の方に押し込まれていた。他の客と比べて扱いもかなり雑。それでも彼らは安くて美味しくてすぐに出てくる料理と酒を求めて店に通い続けた。
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