この恋心を悟られてはいけない
「追加のお酒とおつまみで〜す」
「なぁ、この新作ピザって美味いか?」
 
 皿を並べていると、左から声をかけられた。
 彼はメニューのピザコーナーを指さしている。
 
「美味しいですよ~。店長のおすすめです」
「ヴェルデちゃんは?」
「私はその隣のバジルのやつが好きです」
「んじゃあこっちもらおうかな」
「俺、シーフードのにするわ」
「新作とバジル、シーフードが一枚ずつですね! かしこまりましたぁ」
 
 ヴェルデは愛想のいい笑みを浮かべ、伝票に注文を記していく。
 テーブルに伝票を置くのはこの卓だけだ。他の卓は酒の他にはつまみを少し注文する程度なので、スタッフが各々管理している。
 
「それからゴールドを一本」
「そういえば今日現場が終わるって言ってましたっけ? 無事終わったようでなによりです」
 
 彼らは一番安いビールを頼むことがほとんどだが、現場が終わったタイミングや記念日などには高い酒を注文する。

 彼らが注文するのはゴールド・シルバー・ブロンズの三種類のうちのどれか。
 いずれも正式名称ではなく、ラベルの色だ。三種類の中ではゴールドが一番高い。

 現場が終わったタイミングで入れるのはブロンズであることが多いのに珍しい。

 それに今月は……。
 ヴェルデは頭に浮かんだ疑問を、酒を頼んだ常連・コウルに投げかける。
 
「でもコウルさん、そろそろ結婚記念日ですよね? 高いお酒入れちゃって大丈夫ですか?」
「それなら大丈夫だ。去年ヴェルデちゃんに言われるまで忘れてたの、結局うちの母ちゃんにバレてさ、今年からカレンダーにでっかい丸付いてんだ。毎日目につくもんで、プレゼントはもう買ってあるんだ」
「あー、だからうちのも今年はなんか書いてあったのか」
「今日のは去年の礼みたいなもんだな。まぁ久しぶりにヴェルデちゃんの歌が聞きたいっていうのが一番だけどよ」
 
 ニカッと笑うコウルにヴェルデも頬が緩んだ。
 初めこそ「なぜこんな若い女の子が……」と訝しんでいた彼らだが、今ではヴェルデなりのお返しも含めて受け入れてくれている。
 
 キッチンに戻り、調理スタッフに注文を告げる。
 
「ピザ各種とゴールド入りました~」
「ゴールドか珍しいな。今日は誰だ?」
「コウルさんです」
「じゃあ山の唄だな」
 
 アンセルは金ラベルの酒と自分のバイオリンを、ヴェルデは人数分のグラスを持って席に戻る。全員分に酒を注ぎ、アンセルはバイオリンを構える。
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