この恋心を悟られてはいけない
 ヴェルデを娘のように可愛がってくれている常連達の顔には青筋が浮かんでいる。だが一人だけ冷静なままの男性がいた。コウルである。
 
「まぁお前達、落ち着け。兄ちゃん、ここに座っているならちょうどいい。ヴェルデちゃん難攻不落エピソードを聞かせてやろう」
「え」
「そうだな。それがいい。ヴェルデちゃん、ビールを人数分」
「つまみはいつものな」

 コウルの言葉に賛同する形で他の常連達もいつもの席に就く。
 難攻不落エピソードとは何のことか。全く覚えがない。リオネルも真面目に聞く必要はないのだが、なぜか乗り気である。

 ジョッキを手に、常連達のテーブルに椅子を寄せているではないか。ヴェルデにはリオネルの考えがまるで分からない。

 だが今は勤務中だ。オーダーが入ったからには対応しなければならない。
 
「ビールとおつまみですね」

 彼らが変なことを話すとは思えないが、後ろ髪をひかれる気分でキッチンへと戻る。そして急いでテーブルにビールを運ぶと、なぜかリオネルは仲間として迎え入れられていた。

 この短時間で一体何があったのか。
 コウルは彼の背中をバンバンと叩き、そうかそうかと嬉しそうに笑っている。
 
「おまたせしました」
「お、ヴェルデちゃん来たな! こいつぁ本気だぞ、なんせ七年だからな」
「えっと、何のことでしょう」
 
 七年というと、ヴェルデが王都に来たのがちょうどそのくらいなのだ。まさかリオネルもヴェルデのことを覚えていてくれたのだろうか。淡い期待を抱くが、すぐにそんなはずがないと首を振る。
 
「いや、おっさんがあんまり言うのも野暮ってもんだよな。いっぱい奢ってやるから頑張れよ、若造」
「はい。ありがとうございます」
 
 コウルはそう告げると、リオネルにビールをご馳走する。ついでに追加の酒とビールの注文も受ける。

 ヴェルデが皿洗いをしている間も奥の席はいつも以上の盛り上がりを見せていた。
 滞在時間もいつもより長く、会計する時にはどこか名残惜しそうな目を向けていたほどだ。
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