この恋心を悟られてはいけない

リオネルside

「はぁ……」
 ヴェルデを部屋に案内した後、リオネルは部屋で項垂れていた。
 彼女の手前、ポーカーフェイスを保ち続けていたが、心臓は今にも飛び出しそうだった。

 七年前。
 警備小屋でヴェルデに恋をした。
 髪と同じ緑色の瞳を潤ませ、悔しさで唇を噛む彼女に庇護欲がそそられた。
 少しでも落ち着けようと話を聞いていると、彼女は自分のことをポツポツと話してくれた。

 名前はヴェルデ。
 彼女には優秀な弟がいること。
 弟の学費を稼ぐため、家族みんなで頑張っていること。
 父は近くの炭鉱に出稼ぎに、彼女は王都にやってきたらしい。

「王都ならきっと仕事がいっぱいあるからって言われて。家族と離れて暮らすのは寂しいし、大好きなお母さんのシチューが食べられないのは辛いけど、まさか大好きな歌を仕事にできるなんて思ってなかったから、今とても楽しくて」
 話していくうちに彼女の頬が少しずつ緩んでいく。柔らかな表情に、リオネルの心まで温かくなる。

 王都に来てから悪いことばかりでなくてよかった。
 胸を撫で下ろす。けれど小さな恋心が実ることはない。

 リオネルは騎士で、彼女はたまたま警備小屋を利用したにすぎない。出稼ぎにきた彼女が警備小屋と縁なんてない方が良いに決まっているのだ。

 寂しいが、ひそかに少女の幸せを願い続けていた。
 それは上司に連れていかれた酒場で彼女を見つけた時も同じだった。

 かつて歌を仕事にできるのが楽しいと語ってくれた彼女は、のびのびと声を店中に響かせていた。まるで彼女自身が一つの楽器であるかのように。他の音と一体になる彼女を見ているだけで幸せだった。

 気づけば足が店に向くようになり、歌に耳を傾けながらカウンターで酒を飲むのがリオネルの楽しみになっていた。いつまでも続くと思っていたが、実家の用事で王都を離れている間に火事が起きてしまった。

 修復工事が終わった後の店を訪れたが、そこにヴェルデの姿はなかった。てっきり実家に帰ったのだと思っていた。

 再会するなど夢にも思っていなかった。
 アンセルとは顔見知りではあるものの、彼の店に興味などなかった。いや、ヴェルデ以外の女性に興味がないといった方が正しいか。気づくはずもない。

 警護を申し出た時、アンセルは一瞬とても驚いたように目を丸くしていた。
 彼女はきっと見逃していただろうが、おそらく部下達も同じ反応をすることだろう。それでもリオネルを信頼し、任せてくれた。

 信頼を裏切るつもりはない。
 リオネルはただ、ヴェルデに笑ってほしいだけなのだ。この手で捕まえたいという欲は一切ない。

 この先、彼女が進む道の障害になるのなら、たとえ相手が己であろうとも切り捨てる覚悟である。

「彼女を悲しませるなど断じて許されることではない。俺は俺の職務を全うするのみだ」

 口に出し、己の覚悟を再確認する。緊張感のない顔を思い切り叩き、気合いを入れる。

 次に会った時に平静が崩れることはないはず。
 同僚と部下から付けられた『鋼壁のリオネル』の名は伊達ではないのだ。
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