この恋心を悟られてはいけない
「俺もいくつか作るつもりだ。ところでヴェルデはプリンって作れるか?」
「はい。実家ではたまに作ってました」
「なら今日、作ってみてくれ。試食してみて、ビリーからも許可が下りれば期間限定で店のデザートに加えようと思う」
「え、私のも加えるんですか。作ったことがあるって言っても素人ですよ?」
「どうせしばらく早出になるからな。なんかそれらしい理由があった方がいいだろ。もちろん、時間に余裕があればプリン以外を作ってくれてもいいぞ」
「考えておきます」
店長は二階に行かせないための理由付けを用意してくれたのだ。
ヴェルデはなるほどと頷き、酒場でも注文してもらえそうなデザートを考える。常連達にあったら嬉しいデザートがないか聞いてみよう。
冷やす時間も考え、先にプリンを作る。
ビリーが出勤する前なので蒸し器ではなくオーブンを使用することにした。
「えっと自分用とビリーさんと店長の三つでいっか」
「常連達とあいつの分もな。警護の礼とでも言って渡せば喜ぶだろ」
「リオネルさんにも喜んでもらえるかはともかく、渡すならビリーさんのチェックが終わってからの方がいいんじゃ」
常連達は喜んでくれるだろうが、リオネルはどうだろうか。
彼は貴族だ。直接聞いたわけではないが、間違いない。そんな相手に料理人でもないヴェルデが作ったプリンを渡すのは気が引けてしまう。
「大丈夫大丈夫。ヴェルデが作ったって言えばあいつ、喜んで食うから」
心配するヴェルデとは対照的に、店長は軽い調子で返す。
店長の言葉の意味が分からぬまま、ヴェルデはプリン作りの準備に取り掛かる。
「先輩の分もいいですか?」
「いいぞ。来た時に渡しておく」
プリン液とカラメルを作り、オーブンに入れている間に野菜の皮を剥く。プリンを冷やしている間に残りの下拵えを済ませ、終わったらホールの掃除をして、と過ごしていればあっという間に開店時間になっていた。賄いを急いで食べて、ホール用のエプロンに取り換える。
途中、出勤してきたスタッフ達からも祝福の言葉を贈られた。不釣り合いだと言ってくれる人がいれば気が楽なのだが、気のいい人達ばかりなのだ。
だが身分の高いリオネルが酒場の娘と関係を持ったと勘違いされるのはあまりいいこととは言えない。ヴェルデ自身は身の程を弁えており、勘違いをする気はない。
だが周りは違うのだ。
リオネルの本気宣言がアクセルとなり、訂正するのは難しい。
「あとで相談しないと……」
すでに奥の席にはリオネルが控えている。
メニューを見ながら、今日の夕食は何を食べるか思案しているのだろう。そういう姿すらも決まっている。思わずため息が出てしまいそうになるくらいにカッコいいのである。