この恋心を悟られてはいけない
「あの、私、やっぱり自宅で暮らそうかなと思っていまして」
「危険だ。了承しかねる」
「他のスタッフから勘違いされてて。酒場の女性と一緒の家に帰っているところを知り合いに見られたらマズいですよね?」
「いや、全く」
顔色一つ変えずに一蹴されてしまった。
リオネルは事の重要性を理解していないのだ。どうすれば考え直してくれるだろうか。首筋を掻きながら考える。
「君に困ることがあれば、こちらも他の対応を考えるが……。今さらだが恋人は?」
「……いません」
「解決後には誤解を残さぬように努めよう。今は我慢してくれ。もちろん、家に帰りたい以外での提案は可能な限り受け入れるつもりだ。男の俺が何もしないと言っても信用できないというのであれば女性職員を住まわせるよう、手配を進めて……」
「そっちの心配はしていません!」
ヴェルデとてそんな心配はしていない。
あくまでもはたから見れば勘違いされる、という話をしているのだ。
噂の拡散力というものは意外にも馬鹿にならない。人の噂も七十五日なんて言うが、さほど興味のない話題ならそのくらいで忘れるだけ。自分と近しい存在の話題や印象が強ければいつまでも覚えているものなのだ。
だが噂の片割れの心配ごとはヴェルデとはまるで違うものだった。
呆れたような目を向けられる。
「君も女性なんだからもっと警戒してくれ」
「リオネルさんのような人が遊ぶような店は中心街の店ですから。下手に手を出して後で何言われるかわからない女には手を出さないんですよね。ちゃんと分かってます」
以前、ホールスタッフがそんなことを話していた。
本来、彼のような人があの店に来ることはないのだ。
それに彼がヴェルデの側にいるのは警護のため。仕事である。変な期待をするほどロマンチックな思考は持ち合わせていない。
「別にそういうわけでは……。まぁいい。一度、君の家に行こう。昨日、着替えを取りに行きたいと言っていただろう」
「そのまま家で暮らしたいんですが」
「ダメだ」
すげなく断られ、渋々家で服を回収する。
買っておいた食品系の回収は許してもらえなかった。
リオネル曰く、そこに毒を盛られている可能性があるからと。
もったいないと文句を言えば、危機管理能力が云々とお説教が始まったため、諦めざるを得なかった。
回収した服ですら、一度リオネルの家で洗濯をするという徹底っぷりだ。