この恋心を悟られてはいけない
「君も嬉しいよね。早く一緒になろう」
 男はそう呟くと、ポケットから液体が入った小さな瓶を取り出した。瓶底に微かだが、白い粉が沈澱している。

 嫌だ、嫌。
 助けて、リオネルさん。

 小さく震えながら、頭の中で彼の名を呼ぶ。

「怖くないよ、これを飲むと気持ちよくなれる。あの時みたいに自由に歌えるんだ」

 蕩けたような笑みの男が小瓶の蓋を開けた時だった。
 男の身体がぐらりと揺れた。彼の力が抜けたことで、ヴェルデも解放された。そのまま地面に放り出されるかと思いきや、温かな手が抱きしめてくれた。

 顔なんて見なくても分かる。
 ヴェルデが求めた体温だ。

「ヴェルデ嬢にそんなものは必要ない。彼女は今も気持ちよく、自由に歌っている」
「リオネル、さん……」
「遅くなってすまない」
「最近出てきただけのお前に何が分かる! 五年間、俺はずっと彼女を思い続けてきた。俺達は運命の鎖で繋がれてるんだよ!」
「そうか、俺は七年だ」
「は」
「怪我をして泣いていた彼女に一目惚れをし、上司に連れていかれた店で見つけ、そしてまた再会した。俺達の方がよほど運命だとは思わないか」
「まさかあの時のこと、覚えて……」

 ヴェルデの顔が真っ赤に染まる。
 だがリオネルはそのまま言葉を続ける。

「七年間、ヴェルデ嬢のことを忘れたことはない。俺は彼女を愛している。だが鎖で繋ごうと思ったことは一度もない。彼女を籠の中の鳥にするつもりはない」
「俺はヴェルデのために金を稼いで、顔も変えて……運命だから。それが、ヴェルデの望みだから。ヴェルデは俺を愛してくれる……俺のことを見て歌って……俺だけのカナリア」

 男は爪を立てるように顔を掻きむしる。
 その様子は狂気に満ちていると同時に苦しんでいるようにも見えた。

 正気ではないのだ。
 リオネルの腕を掴む力が強くなる。

「大丈夫だ、大丈夫」
 リオネルはヴェルデの耳元でそう呟く。そして鞘に入れたままの剣で男の腹を殴った。男は抵抗する暇さえなく、そのままフラリと地面に沈んでいった。

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