この恋心を悟られてはいけない
「――ありがとうございました」
 約八分間にわたる歌が終わり、店長と一緒にペコリと頭を下げる。
 常連はもちろん、他の客達も拍手を送ってくれた。そして近くの客が声をかけてくれた。
 
「私もリクエストしたい曲があるんだが、酒を入れればいいか?」
「はい。私の知っている曲限定になってしまうのですが、大丈夫ですか?」
「『カナリアの唄声』を。……思い出の曲なんだ」
 
 よほど思い入れがあるのだろう。客の目はうっすらと潤んでいる。

『カナリアの唄声』はヴェルデにとっても思い出のある曲だ。
 以前いた店のオーナーのお気に入りで、開店時と閉店時には必ず歌っていたものだ。開店時には店のドアを開き、外にも音楽が聞こえるようにしていたため、開店の合図として城下町の人達に広く知れ渡っていた。
 
 この店に来てから歌うのは初めてだが、身体が覚えている。
 
「店長」
「俺も分かる。担当以外のスタッフになるので、会計は先でもいいですか?」

 酒代の一部がバックになる関係で、会計は担当スタッフが行うことになる。
 そのため、担当スタッフ以外に注文する場合はその場で支払いを行うのがルールとなっている。

 注文してもらった時は、余分に持たされている伝票に商品と額を記載し、お金と伝票を店長に預ける決まりとなっている。

 今回は店長がこの場にいるため、彼が注文を取ってくれるようだ。手には新しい伝票とペンが握られている。
 
「ああ。酒は……これを」
 
 彼が差したのは店でも三本の指に入るほど高額な酒だった。
 常連以外から曲のリクエストを受けることは今までにもあった。

 人によっては先ほどの曲のチップも合わせて、とかなり高い酒を入れてくれる人もいる。だがここまで高額なものは初めてだ。思わず店長と顔を見合わせてしまう。

 だが初めから『曲のリクエスト』と言ってくれているし、酒代も迷いなく払ってくれた。こちらから文句を言うことはない。

 こくりと頷き、キッチンに向かう。
 
「ピザ焼けたぞ」
「ありがとうございます」
 今しがたオーダーを受けた酒と一緒に、常連のピザを運ぶ。
 
「おまたせしました。新作とバジル、シーフードのピザです」
「おお、美味そう」
「この後何曲あるんだ?」
「えっと、たぶん三曲ですね」
 
 店長の方を見て確認する。
 ヴェルデが酒の準備をしている間、他の客からリクエストとオーダーを聞いてくれているのだ。
 
 
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