この恋心を悟られてはいけない
「今日はたくさん聞けていいな」
「ああ、つまみももっと頼んでおけばよかった」
「そっちのボトルよこしてくれ」
「頼んだの俺だからな!?」
「小さいことはいいじゃねえか」
 
 ボトルを奪い合うように、けれども楽しそうな常連達。自然とヴェルデの頬も緩む。
 店長に手招きをされ、リクエストリストを確認する。二人で相談して、演奏する曲を決めた。彼らに酒を運んでから演奏に入るのだった。
 
 

 追加の三曲も好評に終わった。
 特に常連達は上機嫌だ。ほろよいでケラケラと笑いながら店を後にした。彼らを見送ったらヴェルデの主なホール作業は終わり。

 キッチンに向かうと、すでに流しには使用済みの食器が大量に積まれていた。

 今日は店一番人気のスタッフ・ニーナが早い時間から出勤しているため、客入りが普段の倍以上になっているのだ。彼女は出勤がまばらで、後輩として可愛がってもらっているヴェルデですら十日に一度話せればいいほど。出勤すれば客が客を呼ぶように繁盛するのである。

 今もニーナの客から次々とオーダーが入っており、さっさと洗わないと足りなくなってしまう。腕まくりをし、グラスとジョッキを優先しながら洗うことにした。



「ふぅ……やっと終わった」
 一階のクローズ時間まで、客が途切れることはなかった。
 初めはひたすら洗い物をしていたヴェルデだったが、途中で空いたテーブルから食器を回収したり、他の客を対応している担当スタッフに代わって席に案内したりがメインとなっていた。

 額の汗を拭うと、後ろからハンカチが差し出された。

「ありがとうございます。それで、どうかしましたか?」
「明日、昼から出られるか? 人手が足りてないんだ。代わりに明日は常連達が帰ったら上がっていいから」
 
 準備の手伝いだけなら一時間早く出れば済むこと。買い出しがある時はそのように言われる。

 けれど言われないということは……。
 問題が起きているのだと悟った。それも他のスタッフに聞かれると厄介なことが。
 
 おそらく『探し物』があるのだろう。
 にっこりと笑って頷く。
 
「大丈夫ですよ〜」
「ん。じゃあ頼んだ」
「ところで賄いはでます?」
「デザートも付けてやろう」
「やった!」
 
 小さくガッツポーズをすると、フッと鼻で笑われた。ガキっぽいとでも思ったのだろう。だが親ほど歳の離れた店長から見ればヴェルデなんて子供である。

 明日の探し物と成果によってはオレンジジュースもねだろうと心に決める。
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