この恋心を悟られてはいけない
「おはようございま〜す」
 翌日。普段よりもかなり早い時間に出勤すると、裏方スタッフの姿すらなかった。キッチンに店長が立っているだけだ。
 
「おう、来たな。これ食ったら早速頼む」
「他の方は?」
「マーガレットは子供が風邪引いたって言うから休ませた。ビリーは買い出しで、エリックにはこの前注文したタオルを取りに行ってもらってる」
「二人が帰ってくるまでに済ませた方がいいってことですね」
「話が早くて助かる。と言っても二人とも今さっき出たばかりだからしばらく帰ってこないけどな。ほら、お前が昨日狙ってたデザートのプリンとオレンジジュースだ」
「バレてたんですね」
「ああ。食いながらこれ確認しとけ」
 
 ほら、と軽く渡されたのは二枚の紙だった。

 一枚目は部屋の使用記録。この一か月間、いつ・誰が・誰と・どの部屋を使用したかが記載されている。客の名前は偽名が使われることも多いのだが、今気にするべきはそこではない。

 二枚目にはスタッフの問題行動が書かれていた。本来、この手のものがスタッフの目に触れることはない。今回の探し物のために特別に見せてくれたのだろう。

 ヴェルデは好物のシチューを食べながら渡された紙を確認する。
 
「この子、この部屋を使ってる率が異常に高い……」

 どの部屋の構造も大体同じで、三十人近くのスタッフがその時々に空いている部屋を使うのだ。
 毎日出勤しているわけでもなければ、一日に何回も二階を利用している訳でもないのに、一か月で二十回以上も同じ部屋を使用するなんて不自然だ。

 キッチンで下拵えをしている店長は何も言わない。

 今までアンセルから『特定の何か』を探してこいと指示されたことはない。探す対象がなんであれ、スタッフを疑うことでもあるからだ。彼女達を刺激しないため、そして矜持を傷つけないために『清掃中に見つかってしまった』という体を保つ必要がある。

 だからこれもヴェルデが勝手に呟いていること。
 問題行動が書かれたメモに記載されている人物名とも合致している。今回の探し物は彼女関連と見て間違いないだろう。

「清掃するついでに傷んでるのとか色が変わってるタオルも回収しといてくれ」
「了解です」
「今日は『入念に』な」
「はい」
 
 ヴェルデの推理は正しかった。もしも見当違いの考えをしていれば、何かしら指摘が入る。
 綺麗になった皿を託し、更衣室で清掃用のエプロンを着ける。
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