夜だけ、わがまま聞いて?
狂った歯車
「じゃ、愛李栖。校門の前で待ってるからな」
司がそう言って、先にマイバッハの重厚なドアを開けて外へ出た。
周囲の女子生徒たちが「キャー!」「あのイケメン誰!?」と一瞬で騒ぎ出す。
バタン、とドアが閉まり、車内が再び静寂に包まれた、その刹那だった。
「――お嬢様」
カチャリ、と運転席から集中ドアロックが掛けられる鈍い音が響く。
心臓がドクンと跳ね上がった。まだ私は車から降りていない。
「り、律……? ドアを開けて。司くんが待って……」
言いかけた言葉は、防音ガラスの仕切りを音もなく引き下げ、後部座席へと身を乗り出してきた律の姿に掻き消された。
「……あの男の名前を、俺の前で呼ばないでください」
低い、地を這うような声。
律は一瞬で後部座席へと移動してくると、怯える私の身体を、広いシートの上に押しすくめた。
昼間の三つ揃いのスーツ姿。
なのに、手袋を脱ぎ捨てた大きな両手が、私の両手首をシートにガッチリと縫い付ける。
「っ、りつ……離して、誰かに見られたら……!」
「見られればいい。あなたが誰のものか、あの男にも、世界中にも教えてあげます」
律の目は完全に据わっていた。
激しい嫉妬で呼吸が荒く、汗で濡れた前髪の間から覗く瞳は、昨夜ベランダから私を睨みつけていたケダモノそのものだ。
「夕べ、楽しかったですか? あの男の腕の中は、そんなに居心地が良かったですか?」
「ちがうの! 私はただ、雷が怖くて……っ」
「俺以外の男に、あんな声で縋り付いて……ッ! おでこにキスまでされて、よくそんな言い訳ができますね!?」
律の声が、怒りと絶望で激しく歪む。
彼は空いた片手で、私の制服のハイネックの襟元を、容赦なく引き下げた。
「あ……っ!」
朝の冷たい空気が、昨日律につけられた首筋の痕に触れる。
律はその赤紫色の痕を狂おしそうな目で見つめたあと、そこに自分の熱い唇を、今度は噛み付くように強く押し当てた。
「――っ、痛い……っ、律、やめて……!」
痛みに涙が滲むけれど、律は止まらない。
昨日つけた痕を上書きするように、さらに深く、激しく、私の白い肌に不敵な刻印を貪り直していく。
「痛くします。忘れないように。……あなたの身体のすべては、俺の許可なく他の男に触れさせていいものじゃない。全部、俺のものなんだから……っ」
首筋から顎、そして拒む隙も与えずに、律の熱い唇が私の唇を塞いだ。
息ができないほどの、激しくて、苦しい口づけ。
何度も何度も角度を変えて、私の記憶から司の気配をすべて消し去ろうとするかのように、深く、深く貪られる。
頭が真っ白になって、抵抗する力も抜けていく。
ようやく唇が離れたとき、律は私の耳元で、獣のように低く、 掠れた声で囁いた。
「放課後、またここでお迎えに上がります。……もし今日もあの男と仲良く並んでくるようなら、俺、本当に何をするか分かりませんよ?」
トロンとした私の目を見つめ、律は一瞬だけ、夜の甘えたような切ない顔をして、私のおでこに、司の痕跡を完全に消し去るような熱いキスを落とした。
カチャ、とドアロックが解除される。
「――お気をつけて行ってらっしゃいませ、お嬢様」
一瞬で完璧な執事の声に戻った律に見送られ、私は震える足で、どうにかマイバッハを降りた。
首筋に残る圧倒的な熱と痛み。
そして、校門の前で不機嫌そうに待っている司の姿を見て、私はこれからの1週間が、生きた心地のしない歪んだ愛の戦場になることを確信していた――。
司がそう言って、先にマイバッハの重厚なドアを開けて外へ出た。
周囲の女子生徒たちが「キャー!」「あのイケメン誰!?」と一瞬で騒ぎ出す。
バタン、とドアが閉まり、車内が再び静寂に包まれた、その刹那だった。
「――お嬢様」
カチャリ、と運転席から集中ドアロックが掛けられる鈍い音が響く。
心臓がドクンと跳ね上がった。まだ私は車から降りていない。
「り、律……? ドアを開けて。司くんが待って……」
言いかけた言葉は、防音ガラスの仕切りを音もなく引き下げ、後部座席へと身を乗り出してきた律の姿に掻き消された。
「……あの男の名前を、俺の前で呼ばないでください」
低い、地を這うような声。
律は一瞬で後部座席へと移動してくると、怯える私の身体を、広いシートの上に押しすくめた。
昼間の三つ揃いのスーツ姿。
なのに、手袋を脱ぎ捨てた大きな両手が、私の両手首をシートにガッチリと縫い付ける。
「っ、りつ……離して、誰かに見られたら……!」
「見られればいい。あなたが誰のものか、あの男にも、世界中にも教えてあげます」
律の目は完全に据わっていた。
激しい嫉妬で呼吸が荒く、汗で濡れた前髪の間から覗く瞳は、昨夜ベランダから私を睨みつけていたケダモノそのものだ。
「夕べ、楽しかったですか? あの男の腕の中は、そんなに居心地が良かったですか?」
「ちがうの! 私はただ、雷が怖くて……っ」
「俺以外の男に、あんな声で縋り付いて……ッ! おでこにキスまでされて、よくそんな言い訳ができますね!?」
律の声が、怒りと絶望で激しく歪む。
彼は空いた片手で、私の制服のハイネックの襟元を、容赦なく引き下げた。
「あ……っ!」
朝の冷たい空気が、昨日律につけられた首筋の痕に触れる。
律はその赤紫色の痕を狂おしそうな目で見つめたあと、そこに自分の熱い唇を、今度は噛み付くように強く押し当てた。
「――っ、痛い……っ、律、やめて……!」
痛みに涙が滲むけれど、律は止まらない。
昨日つけた痕を上書きするように、さらに深く、激しく、私の白い肌に不敵な刻印を貪り直していく。
「痛くします。忘れないように。……あなたの身体のすべては、俺の許可なく他の男に触れさせていいものじゃない。全部、俺のものなんだから……っ」
首筋から顎、そして拒む隙も与えずに、律の熱い唇が私の唇を塞いだ。
息ができないほどの、激しくて、苦しい口づけ。
何度も何度も角度を変えて、私の記憶から司の気配をすべて消し去ろうとするかのように、深く、深く貪られる。
頭が真っ白になって、抵抗する力も抜けていく。
ようやく唇が離れたとき、律は私の耳元で、獣のように低く、 掠れた声で囁いた。
「放課後、またここでお迎えに上がります。……もし今日もあの男と仲良く並んでくるようなら、俺、本当に何をするか分かりませんよ?」
トロンとした私の目を見つめ、律は一瞬だけ、夜の甘えたような切ない顔をして、私のおでこに、司の痕跡を完全に消し去るような熱いキスを落とした。
カチャ、とドアロックが解除される。
「――お気をつけて行ってらっしゃいませ、お嬢様」
一瞬で完璧な執事の声に戻った律に見送られ、私は震える足で、どうにかマイバッハを降りた。
首筋に残る圧倒的な熱と痛み。
そして、校門の前で不機嫌そうに待っている司の姿を見て、私はこれからの1週間が、生きた心地のしない歪んだ愛の戦場になることを確信していた――。