夜だけ、わがまま聞いて?
侵入する毒
「――ふぅ、さっぱりした。お前、先にベッド入ってていいぞ」
九龍家の広すぎる私の部屋。
備え付けのシャワールームから、司くんが湯気を上げて出てきた。
「っ、つ、司くん……っ!?」
振り返った瞬間、私はベッドの上で思わず両手で目を覆った。
司は濡れた髪を乱暴にタオルで拭きながら、上半身裸のまま平然と歩いてきたのだ。
高校生とは思えないほど引き締まった胸板や、逞しい腹筋。
大富豪の御曹司でありながら、どこか野生的な男の肉体に、部屋の空気が一気に熱くなる。
「なんだよ、今更照れてんのか? 小さい頃は一緒のプールで泳いだろ」
「それは7歳とかの話でしょ……っ! 早く何か着て!」
「はいはい」
司くんは不敵に笑うと、ベッドの端に腰掛け、私の顔を覆っていた手を優しく、でも力強く引き剥がした。
「……なぁ、愛李栖。俺、マジでお前との結婚、嫌じゃないから」
ハスキーな低音。司の真っ直ぐで綺麗な瞳が、私を射抜く。
10年前の約束をずっと抱きしめて、私を本当の「お姫様」として愛そうとしてくれている司。
その一途な温もりは、普通なら胸がキュンとするはずなのに――。
……だめ。司くんが近づくと、律の匂いが消えちゃう……。
私の頭を支配していたのは、罪悪感ではなく、昨日律に狂おしいほど貪られた首筋の「痛み」への渇望だった。
司に優しくされればされるほど、反比例するように、律のあの冷たくて狂暴なお仕置きが恋しくてたまらなくなってしまう。
私の心と身体は、すでにあの執事の毒に侵されていた。
その時だった。
カチャリ――。
「――失礼いたします、お嬢様」
ノックもなしに、部屋のマスターキーを使ってドアが開いた。
静かに部屋に滑り込んできたのは、三つ揃いのスーツを完璧に着こなした律だった。
手には、銀のトレイに乗ったハーブティーがある。
「お夜食をお持ちいたしました。……おや」
律の言葉が止まる。
ベッドの上で、半裸の司と、顔を真っ赤にして身を寄せ合っている私。
その光景を見た瞬間、律の綺麗な顔から、すぅっ……と一切の感情が消えた。
「……瀬名。お前、主人の部屋に入る時にノックもなし、か?」
司がわずかに不機嫌そうな声を出し、私を庇うように一歩前に出る。
「これは大変失礼いたしました、鳳様」
律は完璧な角度で一礼した。声は、氷のように冷たい。
「ですが、ここは九龍家。旦那様からお預かりしている大切なお嬢様のお部屋です。鳳様……いくら婚約者とはいえ、夜間にそのような『破廉恥な姿』で令嬢のベッドに近づくのは、最低限の嗜みに欠けるかと」
「なんだと……?」
司の目が鋭く細められる。男二人の視線が、火花を散らすように交差した。
律の表情は鉄壁のポーカーフェイス。
だけど、トレイを持つ白手袋の指先が、みしり……と音を立てて白く強張っているのを、私は見逃さなかった。
律の瞳の奥が、嫉妬で完全に黒く濁っている。
「お嬢様、こちらをお飲みになって、今夜はもうお休みください」
律が私に近づき、ハーブティーのカップを差し出す。
その瞬間、司に隠れて見えない角度で、律の指先が私の太ももを、衣服越しにギリッと肉に食い込むほどの強さで、激しく 強く 掴んだ。
「――っ、……!」
声が出そうになり、私は必死に唇を噛んだ。
痛い。だけど、熱い。
バックミラー越しの警告通り、律の「怒り」が私の肌に直接伝わってきて、心臓がハチ切れそうなほど跳ね上がる。
『他の男とそんな格好で一緒にいるんですね』
声にならない律の激しい独占欲が、掴まれた足から全身へ駆け巡る。
「……瀬名。もういい、下がれ。愛李栖は俺が守る」
司くんの強い言葉に、律は掴んでいた手をゆっくりと離し、再び完璧な執事の顔に戻って頭を下げた。
「かしこまりました。……では、おやすみなさいませ、お嬢様。良い夢を」
律が部屋を出て、ドアが閉まる。
司は「あいつ、なんか鼻につくな」とベッドに戻ってきたけれど、私の心はもう、ここにはなかった。
律……怒ってる……。どうしよう、明日の朝、私どうなっちゃうの……?
司に抱きしめられながらも、私の頭の中は、次の「お仕置き」への恐怖と、それを期待してしまっている狂った興奮で、すっかり満たされていた――。
九龍家の広すぎる私の部屋。
備え付けのシャワールームから、司くんが湯気を上げて出てきた。
「っ、つ、司くん……っ!?」
振り返った瞬間、私はベッドの上で思わず両手で目を覆った。
司は濡れた髪を乱暴にタオルで拭きながら、上半身裸のまま平然と歩いてきたのだ。
高校生とは思えないほど引き締まった胸板や、逞しい腹筋。
大富豪の御曹司でありながら、どこか野生的な男の肉体に、部屋の空気が一気に熱くなる。
「なんだよ、今更照れてんのか? 小さい頃は一緒のプールで泳いだろ」
「それは7歳とかの話でしょ……っ! 早く何か着て!」
「はいはい」
司くんは不敵に笑うと、ベッドの端に腰掛け、私の顔を覆っていた手を優しく、でも力強く引き剥がした。
「……なぁ、愛李栖。俺、マジでお前との結婚、嫌じゃないから」
ハスキーな低音。司の真っ直ぐで綺麗な瞳が、私を射抜く。
10年前の約束をずっと抱きしめて、私を本当の「お姫様」として愛そうとしてくれている司。
その一途な温もりは、普通なら胸がキュンとするはずなのに――。
……だめ。司くんが近づくと、律の匂いが消えちゃう……。
私の頭を支配していたのは、罪悪感ではなく、昨日律に狂おしいほど貪られた首筋の「痛み」への渇望だった。
司に優しくされればされるほど、反比例するように、律のあの冷たくて狂暴なお仕置きが恋しくてたまらなくなってしまう。
私の心と身体は、すでにあの執事の毒に侵されていた。
その時だった。
カチャリ――。
「――失礼いたします、お嬢様」
ノックもなしに、部屋のマスターキーを使ってドアが開いた。
静かに部屋に滑り込んできたのは、三つ揃いのスーツを完璧に着こなした律だった。
手には、銀のトレイに乗ったハーブティーがある。
「お夜食をお持ちいたしました。……おや」
律の言葉が止まる。
ベッドの上で、半裸の司と、顔を真っ赤にして身を寄せ合っている私。
その光景を見た瞬間、律の綺麗な顔から、すぅっ……と一切の感情が消えた。
「……瀬名。お前、主人の部屋に入る時にノックもなし、か?」
司がわずかに不機嫌そうな声を出し、私を庇うように一歩前に出る。
「これは大変失礼いたしました、鳳様」
律は完璧な角度で一礼した。声は、氷のように冷たい。
「ですが、ここは九龍家。旦那様からお預かりしている大切なお嬢様のお部屋です。鳳様……いくら婚約者とはいえ、夜間にそのような『破廉恥な姿』で令嬢のベッドに近づくのは、最低限の嗜みに欠けるかと」
「なんだと……?」
司の目が鋭く細められる。男二人の視線が、火花を散らすように交差した。
律の表情は鉄壁のポーカーフェイス。
だけど、トレイを持つ白手袋の指先が、みしり……と音を立てて白く強張っているのを、私は見逃さなかった。
律の瞳の奥が、嫉妬で完全に黒く濁っている。
「お嬢様、こちらをお飲みになって、今夜はもうお休みください」
律が私に近づき、ハーブティーのカップを差し出す。
その瞬間、司に隠れて見えない角度で、律の指先が私の太ももを、衣服越しにギリッと肉に食い込むほどの強さで、激しく 強く 掴んだ。
「――っ、……!」
声が出そうになり、私は必死に唇を噛んだ。
痛い。だけど、熱い。
バックミラー越しの警告通り、律の「怒り」が私の肌に直接伝わってきて、心臓がハチ切れそうなほど跳ね上がる。
『他の男とそんな格好で一緒にいるんですね』
声にならない律の激しい独占欲が、掴まれた足から全身へ駆け巡る。
「……瀬名。もういい、下がれ。愛李栖は俺が守る」
司くんの強い言葉に、律は掴んでいた手をゆっくりと離し、再び完璧な執事の顔に戻って頭を下げた。
「かしこまりました。……では、おやすみなさいませ、お嬢様。良い夢を」
律が部屋を出て、ドアが閉まる。
司は「あいつ、なんか鼻につくな」とベッドに戻ってきたけれど、私の心はもう、ここにはなかった。
律……怒ってる……。どうしよう、明日の朝、私どうなっちゃうの……?
司に抱きしめられながらも、私の頭の中は、次の「お仕置き」への恐怖と、それを期待してしまっている狂った興奮で、すっかり満たされていた――。