夜だけ、わがまま聞いて?
安物の指輪と本物の刻印
保健室での心臓が止まるようなニアミスから、一夜明けた、司くんとの4日目の夜。
司くんは昨日、カーテンの向こうにいた私(と、息を潜めていた律)に気づかず、先生に戻ってこられて渋々部屋を出て行った。
だけど、そのせいで司くんの私への独占欲は、かえって強くなっているようだった。
「なぁ、愛李栖。お前、これ覚えてるか?」
私の部屋のソファで、司くんがポケットから1つの小さな箱を取り出した。
開けられた箱の中にあったのは、10年前、あの星空の下で私の薬指に嵌めてくれた、カプセルトイのような安物のプラスチックの指輪だった。
「これ……っ」
「俺、ずっと持っててさ。お前に拒まれても、あの時の約束が本物だって信じてる。……俺、本気でお前を幸せにするから」
司くんの真っ直ぐで綺麗な瞳が、私を捉える。
不敵なオレ様気質なのに、私にだけはどこまでも一途で優しい、少女漫画の王子様そのものの司くん。
その純粋な愛に、私の胸はギチギチと罪悪感で締め付けられた。
ごめんなさい、司くん……。私はもう、あの頃の綺麗な女の子じゃないの……。
私の薬指は、すでに毎夜、律の熱い唇によって「目に見えない指輪」を何度も嵌め直されている。
私の心は、もうあの10年前の輝きには戻れないほど、律の闇に染まりきっていた。
「……少し、頭を冷やしてくる。お前もゆっくり考えてくれ」
私の暗い表情を察したのか、司くんは少し寂しそうに笑って、飲み物を買いに部屋を出て行った。
一人残された部屋で、私が重い吐息を漏らした、その時。
トントン、と、今夜は珍しく、静かなノックの音が響いた。
「失礼いたします、お嬢様。お部屋の定期清掃に参りました」
入ってきたのは、いつも通り完璧な執事の微笑みを浮かべた律だった。
だけど、ドアが閉まり、カチャリと鍵が閉まった瞬間、その微笑みは一瞬で剥ぎ取られた。
「律……」
「鳳様は、少しの間戻られませんよ。自動販売機のあるエリアの照明を、私が裏で『故障』させておきましたから」
律は淡々と言いながら、机の上に置かれたままの「あの箱」に目を留めた。
プラスチックの、安物の指輪。
それを見た瞬間、律の瞳の奥の光が、完全に消えた。
「……まだ、こんなゴミを持っていたんですね」
「っ、律、それは……っ!」
驚く私を無視して、律は手袋をはめた手で、その指輪を乱暴につまみ上げた。
11歳のあの冬の夜、テラスの陰で、身分違いの現実に絶望しながら小さな拳を血がにじむほど握りしめていた少年――その記憶のマグマが、21歳になった律の身体の中で爆発するのが分かった。
「10年前からずっと、俺はこれに耐えてきた……ッ。あなたが他の男の安っぽい約束に微笑む姿を、影でじっと見ていることしかできなかった!」
律は指輪を床に投げ捨てると、私の身体をベッドへと押し倒した。
三つ揃いのスーツが擦れ合う音が、静かな部屋に不気味に響く。
律の手袋が外され、驚くほど熱い大きな手が、私の右手を無理やり掴み上げた。
「り、律、やめて……司くんが戻ってきちゃう……っ」
「戻ってくればいい……! あの男の目の前で、あなたが誰のものか分からせてやります!」
律の呼吸は激しく荒く、嫉妬で狂ったケダモノの瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
怒っているのに、泣きそうな顔で私を独占しようとする律。
その歪んだ愛の重さに、私の心臓は壊れそうなほどの音を立てる。
「愛李栖……こんな安物の指輪、今すぐ捨ててください。……それとも、俺が今夜、あなたの薬指に、消えない『本物の指輪』を嵌めてあげましょうか?」
「ぁ……っ!」
律は私の右手の薬指を口内に含み、容赦なく、鋭い歯を立てて じりり と噛みついた。
激しい痛みが走る。だけど、それと同時に、脳を麻痺させるような熱い快感が全身を駆け巡る。
律は噛みついた痕を愛おしそうに何度も何度も吸い上げ、ドロドロとした執着の刻印を私の指に刻みつけていく。
「ん……っ、んむ……りつ……っ」
名前を呼ぶと、律は耐えきれないように私の唇を塞いだ。
一度離れては、愛おしさを確かめるように、息が整う隙もないほど深く、熱く、何度も繰り返される口づけ。
床に転がった10年前の指輪。
そのすぐ側で、私は婚約者の部屋着に囲まれながら、執事の狂おしいほどの愛の檻に、自ら囚われにいくことしかできなかった――。
司くんは昨日、カーテンの向こうにいた私(と、息を潜めていた律)に気づかず、先生に戻ってこられて渋々部屋を出て行った。
だけど、そのせいで司くんの私への独占欲は、かえって強くなっているようだった。
「なぁ、愛李栖。お前、これ覚えてるか?」
私の部屋のソファで、司くんがポケットから1つの小さな箱を取り出した。
開けられた箱の中にあったのは、10年前、あの星空の下で私の薬指に嵌めてくれた、カプセルトイのような安物のプラスチックの指輪だった。
「これ……っ」
「俺、ずっと持っててさ。お前に拒まれても、あの時の約束が本物だって信じてる。……俺、本気でお前を幸せにするから」
司くんの真っ直ぐで綺麗な瞳が、私を捉える。
不敵なオレ様気質なのに、私にだけはどこまでも一途で優しい、少女漫画の王子様そのものの司くん。
その純粋な愛に、私の胸はギチギチと罪悪感で締め付けられた。
ごめんなさい、司くん……。私はもう、あの頃の綺麗な女の子じゃないの……。
私の薬指は、すでに毎夜、律の熱い唇によって「目に見えない指輪」を何度も嵌め直されている。
私の心は、もうあの10年前の輝きには戻れないほど、律の闇に染まりきっていた。
「……少し、頭を冷やしてくる。お前もゆっくり考えてくれ」
私の暗い表情を察したのか、司くんは少し寂しそうに笑って、飲み物を買いに部屋を出て行った。
一人残された部屋で、私が重い吐息を漏らした、その時。
トントン、と、今夜は珍しく、静かなノックの音が響いた。
「失礼いたします、お嬢様。お部屋の定期清掃に参りました」
入ってきたのは、いつも通り完璧な執事の微笑みを浮かべた律だった。
だけど、ドアが閉まり、カチャリと鍵が閉まった瞬間、その微笑みは一瞬で剥ぎ取られた。
「律……」
「鳳様は、少しの間戻られませんよ。自動販売機のあるエリアの照明を、私が裏で『故障』させておきましたから」
律は淡々と言いながら、机の上に置かれたままの「あの箱」に目を留めた。
プラスチックの、安物の指輪。
それを見た瞬間、律の瞳の奥の光が、完全に消えた。
「……まだ、こんなゴミを持っていたんですね」
「っ、律、それは……っ!」
驚く私を無視して、律は手袋をはめた手で、その指輪を乱暴につまみ上げた。
11歳のあの冬の夜、テラスの陰で、身分違いの現実に絶望しながら小さな拳を血がにじむほど握りしめていた少年――その記憶のマグマが、21歳になった律の身体の中で爆発するのが分かった。
「10年前からずっと、俺はこれに耐えてきた……ッ。あなたが他の男の安っぽい約束に微笑む姿を、影でじっと見ていることしかできなかった!」
律は指輪を床に投げ捨てると、私の身体をベッドへと押し倒した。
三つ揃いのスーツが擦れ合う音が、静かな部屋に不気味に響く。
律の手袋が外され、驚くほど熱い大きな手が、私の右手を無理やり掴み上げた。
「り、律、やめて……司くんが戻ってきちゃう……っ」
「戻ってくればいい……! あの男の目の前で、あなたが誰のものか分からせてやります!」
律の呼吸は激しく荒く、嫉妬で狂ったケダモノの瞳から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちていた。
怒っているのに、泣きそうな顔で私を独占しようとする律。
その歪んだ愛の重さに、私の心臓は壊れそうなほどの音を立てる。
「愛李栖……こんな安物の指輪、今すぐ捨ててください。……それとも、俺が今夜、あなたの薬指に、消えない『本物の指輪』を嵌めてあげましょうか?」
「ぁ……っ!」
律は私の右手の薬指を口内に含み、容赦なく、鋭い歯を立てて じりり と噛みついた。
激しい痛みが走る。だけど、それと同時に、脳を麻痺させるような熱い快感が全身を駆け巡る。
律は噛みついた痕を愛おしそうに何度も何度も吸い上げ、ドロドロとした執着の刻印を私の指に刻みつけていく。
「ん……っ、んむ……りつ……っ」
名前を呼ぶと、律は耐えきれないように私の唇を塞いだ。
一度離れては、愛おしさを確かめるように、息が整う隙もないほど深く、熱く、何度も繰り返される口づけ。
床に転がった10年前の指輪。
そのすぐ側で、私は婚約者の部屋着に囲まれながら、執事の狂おしいほどの愛の檻に、自ら囚われにいくことしかできなかった――。