夜だけ、わがまま聞いて?

午前零時に奪還

「――じゃあな、愛李栖。また学校で」
同居生活の期限である7日目の朝。
司くんは、自分の荷物をまとめたバッグを肩にかけ、私の部屋のドアの前で振り返った。
昨夜の告白の答えを急かすこともせず、ただ私を慈しむように、優しく頭を撫でてくれる。
「俺、諦めないから。お前が本当に俺を向いてくれるまで、ずっと待ってる」
どこまでも真っ直ぐな王子様の笑顔。
「ありがとう、司くん……」と返す私の声は、罪悪感でかすかに震えていた。
司くんが部屋を出て行った瞬間、私は緊張の糸が切れたように、その場にへたり込んでしまった。
終わった。これで、司くんと部屋で過ごす1週間は終わった。
ということは、今夜からまた、あの人が来る。
昨夜、三つ揃いのスーツをはだけさせ、涙を浮かべながら『俺と駆け落ちしてくれませんか』と迫ってきた、あの狂おしいケダモノが。
――そして、運命の午前0時。
カチャリ、と夜の静寂を切り裂いて、寝室の鍵が閉まる音が響いた。
心臓がドクンと跳ね上がる。ゆっくりと振り返ると、そこに立っていたのは、ジャケットもネクタイもすでに廊下に脱ぎ捨て、白シャツのボタンを胸元まで大きく開けた瀬名律だった。
「……愛李栖。やっと、やっと俺だけの時間ですね」
律の目は、激しい飢餓感でギラギラと妖しく濡れていた。
彼はゆっくりと、獲物を追い詰めるケダモノのような足取りでベッドへ近づくと、私の返事を聞くよりも早く、私の身体をベッドへと押し倒した。
「っ、りつ……! 司くんは、もう元の部屋に……っ」
「知っています。あの男の気配が消えるのを、1分1秒、数えながら待っていましたから」
律の低く掠れた声が耳元で跳ね、背中に甘い鳥肌が立つ。
手袋を外した律の大きな熱い手のひらが、私の衣服の中に滑り込み、この1週間、司くんに見られないよう必死に隠していた私の肌を、直接激しくなぞっていく。
「一週間、よく我慢がんばりましたね、愛李栖。……お仕置きは、もう十分に与えたつもりでしたが、まだ足りません」
「ぁ……っ!」
律の潤んだ瞳が見つめてきたかと思うと、重なる唇が何度も、何度も、場所を変えて触れ合う。
額、目蓋、頬、そして最後は焦らすように唇へ。
一度離れては、愛おしさを確かめるようにまた深く塞がれる。
「ん……っ、んむ……っ」
息が整う隙もないほど何度も繰り返される熱い口づけに、頭がすっかり真っ白になっていく。
だけど、今夜の律の愛撫は、いつも以上に激しく、執拗だった。
まるで、私の身体から司くんと過ごした1週間の記憶を、細胞レベルで全て「採取」して、自分の色だけで塗り潰そうとするかのように。
「愛李栖……もう俺を焦らさないで。ただの執事の俺じゃ、あなたを公に抱きしめることもできない……。お願いだから、俺と一緒に逃げてよ……っ」
汗で濡れた前髪の隙間から、野生のケダモノのような瞳が私を捉え、律の声が子供のように泣きそうに歪む。
大人の男の体格で私を組み伏せながら、私を失う恐怖にガタガタと震えている律。
その時、昨日彼に噛みつかれた右手の薬指を、律が再び口内に含み、強く じりり と噛み上げた。
「――っ! あ……っ」
痛みにのけ反る私の耳元で、律はドロドロとした独占欲に満ちた声で囁いた。
「この傷が癒える前に、俺のプロポーズの返事、聞かせてくださいね? ……もしダメだと言われても、俺、あなたを監禁してでも離しませんから」
首筋に残る熱い感触、薬指に刻まれた消えない痕、そして律の狂わんばかりの愛の重さ。
昼間の完璧な執事にはもう二度と戻れないほど、私を求めて狂ってしまった律の腕の中で、私はただ、彼の背中にきゅっと爪を立てて、その甘くて危険な底なし沼へと、どこまでも沈んでいくことしかできなかった――。
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