夜だけ、わがまま聞いて?
昼間は完璧な執事
「――お嬢様。お迎えに上がりました。お荷物をお預かりいたします」
放課後の校門前。ずらりと並ぶ高級車のなかでも一際目を引く漆黒のマイバッハの前で、瀬名律(21)は完璧な角度で一礼した。
一糸乱れぬ黒の三つ揃いのスーツに、白の手袋。
彫刻のように美しい顔はいつだって氷のように冷ややかで、周囲の女子生徒たちが「九龍さんちの執事さん、今日もヤバい……」「尊すぎる……」と色めき立っているのにも、彼は微動だにしない。
律はスッと膝をつくと、私のローファーの汚れをそっとハンカチで拭い、まるでお姫様を扱うように車のドアを開けた。
「ありがとうございます、瀬名」
私はわざと、ツンとした『九龍家の令嬢』としての声を出す。
周囲から見れば、どこまでも身分を弁えた優秀な執事と、気高く美しいお嬢様。
だけど――。
車に乗り込み、防音ガラスで仕切られたプライベートな空間になった瞬間、私は彼の手袋がはめられた右手を、じっと見つめてしまう。
……この手、昨日の夜はあんなに熱かったのに。
昨夜、鍵をかけた私の寝室で、この白い手袋はベッドの床に冷たく脱ぎ捨てられていた。
昼間は指一本触れてこない律の大きな手のひらが、昨夜は私の肌を熱く、何度も、何度もなぞり、激しく求めてきた。
あのとき、昼間の冷徹な仮面をかなぐり捨てて、汗に濡れた前髪の間から私を狂おしそうに見つめていた、律のあの潤んだ瞳。
何度も唇を塞がれ、息が整う隙もないほど深く愛し合って、2人の境界線が溶けてしまった夜の熱が、まだ私の体に残っている。
「……お嬢様? どうかされましたか。そんなに見つめられては、私が『わがまま』を言いたくなってしまいます」
不意に、バックミラー越しに律と目が合った。
声はいつも通り冷たいはずなのに、その瞳の奥だけが、一瞬、夜のケダモノの熱を帯びて妖しく濡れた。
私は慌てて視線を逸らし、赤くなる顔を隠すように窓の外を見た。
私以外、誰も知らない。
昼間は私に絶対服従のこの執事が、午前0時のチャイムが鳴ると、世界で一番甘くて危険な男に変わることを――。
放課後の校門前。ずらりと並ぶ高級車のなかでも一際目を引く漆黒のマイバッハの前で、瀬名律(21)は完璧な角度で一礼した。
一糸乱れぬ黒の三つ揃いのスーツに、白の手袋。
彫刻のように美しい顔はいつだって氷のように冷ややかで、周囲の女子生徒たちが「九龍さんちの執事さん、今日もヤバい……」「尊すぎる……」と色めき立っているのにも、彼は微動だにしない。
律はスッと膝をつくと、私のローファーの汚れをそっとハンカチで拭い、まるでお姫様を扱うように車のドアを開けた。
「ありがとうございます、瀬名」
私はわざと、ツンとした『九龍家の令嬢』としての声を出す。
周囲から見れば、どこまでも身分を弁えた優秀な執事と、気高く美しいお嬢様。
だけど――。
車に乗り込み、防音ガラスで仕切られたプライベートな空間になった瞬間、私は彼の手袋がはめられた右手を、じっと見つめてしまう。
……この手、昨日の夜はあんなに熱かったのに。
昨夜、鍵をかけた私の寝室で、この白い手袋はベッドの床に冷たく脱ぎ捨てられていた。
昼間は指一本触れてこない律の大きな手のひらが、昨夜は私の肌を熱く、何度も、何度もなぞり、激しく求めてきた。
あのとき、昼間の冷徹な仮面をかなぐり捨てて、汗に濡れた前髪の間から私を狂おしそうに見つめていた、律のあの潤んだ瞳。
何度も唇を塞がれ、息が整う隙もないほど深く愛し合って、2人の境界線が溶けてしまった夜の熱が、まだ私の体に残っている。
「……お嬢様? どうかされましたか。そんなに見つめられては、私が『わがまま』を言いたくなってしまいます」
不意に、バックミラー越しに律と目が合った。
声はいつも通り冷たいはずなのに、その瞳の奥だけが、一瞬、夜のケダモノの熱を帯びて妖しく濡れた。
私は慌てて視線を逸らし、赤くなる顔を隠すように窓の外を見た。
私以外、誰も知らない。
昼間は私に絶対服従のこの執事が、午前0時のチャイムが鳴ると、世界で一番甘くて危険な男に変わることを――。