夜だけ、わがまま聞いて?

午前0時の支配者

あの大雨の結婚式前夜から、数年の月日が流れた。
九龍家も、司くんの追跡も、今の私たちにはもう届かない。
「――お目覚めですか、俺の可愛いお姫様」
遮光カーテンに遮られた、昼も夜も分からない静かな寝室。
キングサイズのベッドの上で身を起こした私の前に、仕立ての良い高級なシルクのシャツを着た、瀬名律が立っていた。
数年の歳月は、21歳だった彼をさらに獰猛で、圧倒的な色気を持つ大人の男へと成長させていた。
現在の彼は、九龍家の執事ではない。
その明晰な頭脳と冷徹な手腕を活かし、海外の投資市場で莫大な富を築き上げた、若き最高経営者。
今や私をこの広い邸宅に囲い、世界のすべてから隠し通すだけの「絶対的な支配者」になっていた。
「律……」
私が名前を呼ぶと、律はかつてのようにスッと膝をつき、ベッドにいる私の足元へ近づいてきた。
白の手袋はもうしていない。
熱い素肌の手が、私の足首をそっと掴み、甲に深く、愛おしそうなキスを落とす。
かつては私が「主人」で、彼が「執事」だった。
けれど今、私はこの部屋から一歩も外に出ることを許されていない。
服を選ぶのも、食べるものを決めるのも、すべては律。
立場は完全に逆転し、私は彼に飼われる、籠の中の鳥になった。
だけど、私はこれが、狂おしいほど幸せだった。
「愛李栖、今日も良い子で待てましたね」
不意に、律がベッドに這い上がってきて、私の身体を上から押しつぶした。
その瞳が、一瞬で『夜のケダモノ』の熱を帯びて妖しく濡れる。
彼の手が私のシルクのネグリジェの襟元を優しく、でも拒むことを許さない強さで引き下げた。
「あ……っ、ん……っ」
首筋に、じりり、と熱い痛みが走る。
何年経っても、律は私の肌に、自分が主人であるという証拠の痕(キスマーク)を、何度も、何度も、深く貪るように刻みつけずにはいられないのだ。
私の首筋や薬指には、10年前のあの安物の指輪なんかより、ずっと濃くて消えない、律だけのドロドロとした執着の刻印が今も真っ赤に咲き誇っている。
「愛李栖、足りない……。もっと、俺で満たされて……っ」
何度も何度も場所を変えて重ねられる、深く熱い口づけ。
息が整う隙もないほどの熱い愛撫に、私の頭はすっかり真っ白になっていく。
どれだけ世界が変わっても、私の身体を芯から蕩かすのは、この律の狂暴な愛だけ。
ふと、深く塞がれていた唇が離れた。
顔を上げた律の瞳を見ると、激しい独占欲の奥で、私を失う恐怖に怯えた11歳の少年のように、ウルウルと涙が濡れていた。
「ねぇ、愛李栖。俺を置いて、あの男のところへ行ったりしないよね? ……もし逃げたら、今度は本当に、手足に鎖をつけてでも離さないから」
大人の男の体格で私を組み伏せながら、子供のように甘えて、脅してくる愛しいケダモノ。
「逃げるわけないでょ……。私は、ずっと律のものなんだから」
私が微笑んで彼の首に腕を絡めると、律の喉が愛おしそうにククッと鳴った。
午前0時のチャイムなんて、もう必要ない。
24時間、死が二人を引き裂くまで、私たちはこの2人だけの秘密の檻の中で、溶け合うように愛を確かめ合っていく――。

(完)
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