夜だけ、わがまま聞いて?

嫉妬の刻印

お父様の前を辞し、震える足で廊下を歩いていた、その時だった。
「――お嬢様、こちらへ」
不意に後ろから、強い力で腕を引かれた。
驚く暇もなく、私は近くにあった使われていない客間の薄暗がりに連れ込まれる。
バタン、とドアが閉まると同時に、カチャリ、と鍵の閉まる乾いた音が、静かな空間に冷たく響いた。
「っ、りつ……!? ここ、お屋敷の……っ」
「静かに。……声が響きます」
いつもなら絶対にこんな無茶はしない律が、私の言葉を遮って、そのまま私をドアに押し付けた。
昼間の三つ揃いのスーツ姿のままの律。だけど、その目は完全に光を失っていて、狂おしいほどの嫉妬と怒りに燃え上がっている。
「律、お父様の言うことは、その……」
「嫌です」
律の低く掠れた声が、私の耳元を打つ。
「1週間も、あの男をあなたの部屋で寝泊まりさせるなんて、絶対に嫌だ。……あいつに触られるくらいなら、今ここで、俺のものに……」
「っ、ん……!」
言いかける唇を、強引に塞がれた。
昼間のキスとは比べ物にならないほど、荒々しくて、息ができないほど深い口づけ。
「りつ、だめ、誰か来たら……っ」
必死に胸を押し返そうとするけれど、ビクともしない。
白の手袋をはめた律の両手が、私の手首を頭の上でガッチリと固定する。体格差の前に、私はただ身を委ねるしかなかった。
何度も唇を貪られ、頭が酸素不足でトロンとしてきた頃、律の唇がゆっくりと私の首筋へと滑り降りていく。
「律……っ、そこは……!」
「消えないように、つけておきます。あなたが俺のものだって、あの男に分からせるために」
「ぁ……っ」
首筋に、じりり、と熱くて強い痛みが走る。
律は容赦なく、私の白い肌に、自分のものだという証拠を強く吸い付くように刻みつけていく。
「……はぁ、愛李栖、愛李栖……。もう俺のものに、なってよ……っ」
不意に、律の声が子供のように泣きそうに歪んだ。
顔を上げた彼の瞳は、激しい独占欲と、私を失う恐怖でウルウルと濡れている。
昼間なのに、鍵をかけたこの薄暗がりの中だけは、私の大好きな『夜の甘えたケダモノ』の律だった。
「司様が部屋に来ても、絶対に触らせないで。……俺、本当にあいつを殺してしまうかもしれない」
首筋に残る熱い感触と、律の狂わんばかりの愛の重さに、私の心臓は壊れそうなほどの音を立てていた――。
< 5 / 21 >

この作品をシェア

pagetop