夜だけ、わがまま聞いて?
すべてのはじまり
司の逞しい腕に抱きしめられながら、私の頭の奥で、カチリと10年前の記憶のパズルが合わさった。
――そうだ、私と司は、出会っていた。
私が7歳、司が8歳。
九龍家と鳳家が顔を合わせる、あのきらびやかで息の詰まるような、大富豪たちのニューイヤーパーティーの夜に。
大人たちの視線や、窮屈なドレスに耐えかねた私は、一人でこっそりテラスに逃げ出したのだ。
冬の冷たい空気のなか、星空を見上げて涙をこらえていた私の前に、突然現れたのが司だった。
『お前、九龍の娘だろ。なんで泣きそうな顔してんだよ』
仕立ての良いタキシードを着た司は、幼いながらも圧倒的な気品とオーラを放っていた。
彼は私の涙を自分のハンカチで乱暴に拭うと、ニカッと不敵に笑って、私を強引にリードして星空の下で踊らせてくれたのだ。
そして、自分のポケットから、カプセルトイに入っているような安物のおもちゃの指輪を取り出して、私の薬指に嵌めた。
『お前、可愛いから俺の婚約者にしてやる。将来、絶対に迎えに行くから待ってろよ』
少女漫画の王子様そのものの司に、当時の私は顔を真っ赤にして頷くことしかできなかった。
きらきらとした、温かいひと夏の、いいえ、ひと冬の初恋のような思い出。
……だけど。
その完璧な絵画のような思い出のすぐ後ろに、もう一人の少年がいたことを、私は今の今まで忘れていた。
テラスのガラス扉の陰。
当時11歳だった瀬名律は、すでに九龍家の「見習い執事」として、私の影に控えていたのだ。
司が私の指に指輪を嵌め、私が嬉しそうに微笑んだその瞬間。
ドレスの裾を汚さないようにと、私のために上着を抱えて立っていた幼い律の姿が、記憶の底から鮮明に蘇る。
律は、私と司の姿を、じっと見つめていた。
それは11歳の子どもとは思えないほど、暗く、深く、絶望に満ちた瞳だった。
身分が違うから、自分はただの執事だから、大富豪の令嬢である私に指一本触れることも、司から奪い返すこともできない。
その圧倒的な現実の前に、小さな拳を血がにじむほど強く、強く握りしめていた律――。
……あの時からずっと、律は耐えていたんだ。
「愛李栖、やっと約束、果たしに来たぞ」
嬉しそうに腕の力を強める司の胸の中で、私は冷や汗が止まらなくなっていた。
10年前、ただ耐えることしかできなかった11歳の少年は、いまや21歳の大人の男になり、私の首筋に消えないキスマークを刻みつけるほどの激しい『ケダモノ』へと成長してしまった。
校門の前で、こちらを睨みつける律の凍りついた瞳を見た瞬間、私には分かってしまった。
あの夜、10年分の律の嫉妬と執着のマグマが、ついに完全に爆発してしまうのだと――。
――そうだ、私と司は、出会っていた。
私が7歳、司が8歳。
九龍家と鳳家が顔を合わせる、あのきらびやかで息の詰まるような、大富豪たちのニューイヤーパーティーの夜に。
大人たちの視線や、窮屈なドレスに耐えかねた私は、一人でこっそりテラスに逃げ出したのだ。
冬の冷たい空気のなか、星空を見上げて涙をこらえていた私の前に、突然現れたのが司だった。
『お前、九龍の娘だろ。なんで泣きそうな顔してんだよ』
仕立ての良いタキシードを着た司は、幼いながらも圧倒的な気品とオーラを放っていた。
彼は私の涙を自分のハンカチで乱暴に拭うと、ニカッと不敵に笑って、私を強引にリードして星空の下で踊らせてくれたのだ。
そして、自分のポケットから、カプセルトイに入っているような安物のおもちゃの指輪を取り出して、私の薬指に嵌めた。
『お前、可愛いから俺の婚約者にしてやる。将来、絶対に迎えに行くから待ってろよ』
少女漫画の王子様そのものの司に、当時の私は顔を真っ赤にして頷くことしかできなかった。
きらきらとした、温かいひと夏の、いいえ、ひと冬の初恋のような思い出。
……だけど。
その完璧な絵画のような思い出のすぐ後ろに、もう一人の少年がいたことを、私は今の今まで忘れていた。
テラスのガラス扉の陰。
当時11歳だった瀬名律は、すでに九龍家の「見習い執事」として、私の影に控えていたのだ。
司が私の指に指輪を嵌め、私が嬉しそうに微笑んだその瞬間。
ドレスの裾を汚さないようにと、私のために上着を抱えて立っていた幼い律の姿が、記憶の底から鮮明に蘇る。
律は、私と司の姿を、じっと見つめていた。
それは11歳の子どもとは思えないほど、暗く、深く、絶望に満ちた瞳だった。
身分が違うから、自分はただの執事だから、大富豪の令嬢である私に指一本触れることも、司から奪い返すこともできない。
その圧倒的な現実の前に、小さな拳を血がにじむほど強く、強く握りしめていた律――。
……あの時からずっと、律は耐えていたんだ。
「愛李栖、やっと約束、果たしに来たぞ」
嬉しそうに腕の力を強める司の胸の中で、私は冷や汗が止まらなくなっていた。
10年前、ただ耐えることしかできなかった11歳の少年は、いまや21歳の大人の男になり、私の首筋に消えないキスマークを刻みつけるほどの激しい『ケダモノ』へと成長してしまった。
校門の前で、こちらを睨みつける律の凍りついた瞳を見た瞬間、私には分かってしまった。
あの夜、10年分の律の嫉妬と執着のマグマが、ついに完全に爆発してしまうのだと――。