夜だけ、わがまま聞いて?
嵐の夜
カチャリ、と夜の自室の鍵が開けられる。
いつもならそれは、午前0時に訪れる私と律だけの「秘密の時間」の合図。
だけど、今夜そのドアを開けて入ってきたのは、仕立ての良いシルクのパジャマに身を包んだ鳳司だった。
「よっ、愛李栖。今日から1週間、よろしくな」
不敵な笑みを浮かべて私のベッドに腰掛ける司に、私は心臓が跳ね上がるのを感じた。
どうしよう、まだ首の後ろには、昼間に律からつけられたキスマークが熱を持ったまま残っている。
制服から部屋着のハイネックに着替えて必死に隠しているけれど、もし見つかったら……。
「な、何言ってるの司くん! 部屋が一緒なだけで、ベッドは別々に決まってるでしょ!」
「は? 何言ってんだよ。婚約者なんだから同じベッドで寝るに決まってんだろ。ほら、おいで」
司は長い腕を伸ばすと、抵抗する間もなく私の身体をグイッと引き寄せ、そのままベッドに押し倒した。
「ちょ、ちょっと、放して……っ」
「放さない。10年も待たせたんだ、これくらい当然だろ」
背後から逞しい腕でガッチリとホールドされ、私の背中に司の温かい胸板がぴったりと密着する。
男の子の体温と、どこか柑橘類の洗練された香水が混ざった香りに、頭がクラクラする。
昼間はあんなにオレ様だったのに、抱きしめる腕の力は驚くほど優しくて、本当に私を大切に思ってくれているのが伝わってきて胸が苦しくなった。
「……お前、ちっちゃくて、柔らかくて、全然変わってねぇな」
耳元で少し掠れたハスキーな声が囁かれ、耳たぶが熱くなる。
逃げ出そうともがく私を心地よさそうに閉じ込めたまま、司の規則正しい寝息がやがて私の項に当たり始めた。
本当に、ただハグをしたまま寝てしまったのだ。
「……バカ、司くん。本当に緊張感ないんだから……」
ホッとしたのも束の間、窓の外でピカッと不気味な光が走った。
ズドォォォンッ!!!
地響きを立てるような激しい雷の音が、静かな寝室に轟く。
「ひゃうっ……!?」
幼い頃から雷が大嫌いな私は、恐怖のあまり完全にパニックになり、無意識に目の前にあった司のパジャマの胸元にギュッと顔を埋め、しがみついてしまった。
「……ん? 愛李栖……?」
衝撃で目を覚ました司が、驚いたように目を見開く。
私の身体はガタガタと震えていて、司の胸に涙目でしがみついたまま、離れることができない。
「雷、こわい……っ、司くん、おねがい、離さないで……っ」
完全に幼児退行したように甘える私を見て、司は一瞬呆然としたあと、その端正な顔をこれ以上ないほど真っ赤に染めた。
「ッ~~~、お前、それは反則だろ……っ! 可愛すぎるんだよ!」
司は悶えるように頭を抱えたあと、愛おしさが爆発したような目で私を見つめ、そっと私のおでこに、柔らかく温かいキスを落とした。
「……いける? って、何がだよ。これ以上は俺だって理性が持たねぇ。……怖くないから、ここにいろ」
司はさらに強く、愛おしそうに私を胸の中に閉じ込める。その温もりに包まれて、私の恐怖は少しずつ薄れていった。
だけど――私は気づいていなかった。
激しい雨音が響くベランダの外。
完璧に遮光されているはずのカーテンの隙間から、暗闇に紛れてこちらをじっと見つめる、冷たくて、完全に光の消えた『ケダモノの瞳』があることに。
「……愛李栖、約束、破ったんですね」
激しい雷雨の中、ずぶ濡れのままベランダの柵を掴む執事・瀬名律の手袋が、ギリィ……と音を立てて引き千切れそうになっていた――。
いつもならそれは、午前0時に訪れる私と律だけの「秘密の時間」の合図。
だけど、今夜そのドアを開けて入ってきたのは、仕立ての良いシルクのパジャマに身を包んだ鳳司だった。
「よっ、愛李栖。今日から1週間、よろしくな」
不敵な笑みを浮かべて私のベッドに腰掛ける司に、私は心臓が跳ね上がるのを感じた。
どうしよう、まだ首の後ろには、昼間に律からつけられたキスマークが熱を持ったまま残っている。
制服から部屋着のハイネックに着替えて必死に隠しているけれど、もし見つかったら……。
「な、何言ってるの司くん! 部屋が一緒なだけで、ベッドは別々に決まってるでしょ!」
「は? 何言ってんだよ。婚約者なんだから同じベッドで寝るに決まってんだろ。ほら、おいで」
司は長い腕を伸ばすと、抵抗する間もなく私の身体をグイッと引き寄せ、そのままベッドに押し倒した。
「ちょ、ちょっと、放して……っ」
「放さない。10年も待たせたんだ、これくらい当然だろ」
背後から逞しい腕でガッチリとホールドされ、私の背中に司の温かい胸板がぴったりと密着する。
男の子の体温と、どこか柑橘類の洗練された香水が混ざった香りに、頭がクラクラする。
昼間はあんなにオレ様だったのに、抱きしめる腕の力は驚くほど優しくて、本当に私を大切に思ってくれているのが伝わってきて胸が苦しくなった。
「……お前、ちっちゃくて、柔らかくて、全然変わってねぇな」
耳元で少し掠れたハスキーな声が囁かれ、耳たぶが熱くなる。
逃げ出そうともがく私を心地よさそうに閉じ込めたまま、司の規則正しい寝息がやがて私の項に当たり始めた。
本当に、ただハグをしたまま寝てしまったのだ。
「……バカ、司くん。本当に緊張感ないんだから……」
ホッとしたのも束の間、窓の外でピカッと不気味な光が走った。
ズドォォォンッ!!!
地響きを立てるような激しい雷の音が、静かな寝室に轟く。
「ひゃうっ……!?」
幼い頃から雷が大嫌いな私は、恐怖のあまり完全にパニックになり、無意識に目の前にあった司のパジャマの胸元にギュッと顔を埋め、しがみついてしまった。
「……ん? 愛李栖……?」
衝撃で目を覚ました司が、驚いたように目を見開く。
私の身体はガタガタと震えていて、司の胸に涙目でしがみついたまま、離れることができない。
「雷、こわい……っ、司くん、おねがい、離さないで……っ」
完全に幼児退行したように甘える私を見て、司は一瞬呆然としたあと、その端正な顔をこれ以上ないほど真っ赤に染めた。
「ッ~~~、お前、それは反則だろ……っ! 可愛すぎるんだよ!」
司は悶えるように頭を抱えたあと、愛おしさが爆発したような目で私を見つめ、そっと私のおでこに、柔らかく温かいキスを落とした。
「……いける? って、何がだよ。これ以上は俺だって理性が持たねぇ。……怖くないから、ここにいろ」
司はさらに強く、愛おしそうに私を胸の中に閉じ込める。その温もりに包まれて、私の恐怖は少しずつ薄れていった。
だけど――私は気づいていなかった。
激しい雨音が響くベランダの外。
完璧に遮光されているはずのカーテンの隙間から、暗闇に紛れてこちらをじっと見つめる、冷たくて、完全に光の消えた『ケダモノの瞳』があることに。
「……愛李栖、約束、破ったんですね」
激しい雷雨の中、ずぶ濡れのままベランダの柵を掴む執事・瀬名律の手袋が、ギリィ……と音を立てて引き千切れそうになっていた――。