わたしのこと、まだ好きですか?

幼馴染の死に震撼する

 風間圭一の死が保護者・生徒用連絡網を駆け巡るころ、岸田加代は恋人の吉田太一と一緒にファッションホテル(別名:ラブホ)に滞在して眠っていた。高速のインターに近いため建設されたホテルであり、地元のカップルがよく利用していた。加代と吉田は中学生同士のカップルとはいえ、中三で私服でありクリスマスイブなので、従業員たちも忙しくて気がつかずに入店をスルーしてしまっていた。

 加代は恋人同士の憩いの時間を過ごし、吉田のそろそろチェックアウトの時間だなという声でシャワーを浴び、退出する準備を始めた。それから自宅まで歩いて行くのが学生たちのお金の都合であり、マイカーで出入りしたりタクシーを捕まえられる都会ではない現実を目の当たりにする。

 そういう訳で、時々、知られていないカップルの爆誕やうっかり浮気が目撃されたりして血を見るのだが、加代たちもまた、友人知人に目撃されていた。親の耳に入らなかったのが幸運なのか不運なのか、加代のお腹の中には小さな命が生まれようとしていた。

 吉田は避妊すら考慮に入れず、こんなところも無責任であり、美少女である加代をアクセサリーのように無意識に扱っていた。

 ◇

 吉田と別れた加代は、自宅に戻る際に非常に静かで真っ暗な隣の家をちらっと眺めた。以前は仲良しで初恋の相手である風間圭一の部屋によく遊びに行っており、幸せな時間を過ごしたのだと思い出す。

(何してるかな、ケイくん)

 今は恋人である吉田太一と共に歩んでおり、必要以上に圭一とは接しないようにと彼からも言われていたが、心には圭一がしっかりと住んでいた。加代にとって吉田という男子は、加代が圭一に殴られ落ちていたガラスの破片で顔を切った際に助けてくれた恩人であり、他人が何を言おうと大切な男性であった。

 上手く表現できないが、想い人は圭一、恩義を感じているのは吉田である。

 そう、吉田の悪い噂、性格に難があることは加代自身でも聞いて実感していた。全く知らずに付き合っているわけではない。それを承知の上で、義理堅い性格の加代は身を捧げているのだ。吉田のウソに騙されているとは知らず。



 自宅の玄関を開けて中に入ると、父親は仕事に早くも出勤しているようだった。しかし、いつもは居る母親が珍しく自宅の何処にもいなかった。

「おかあさん?」

 声を掛けてみるが、どうやら母は朝早くから外出の様だ。居間に入ると、テーブルの上に朝食とメモが用意されていた。それを読み、唖然とした。

「こ、これは……」

 風間圭一の死亡の急報。

 深夜二十四時過ぎ、自宅の部屋で急逝し、病院に担ぎ込まれたが、死亡を認定した医師により、治療はせずに霊安室へと移動し安置されたという。風間圭一のご両親も救急車と共に病院に同行しているとのこと。

 また、自分の母親も病院に行って風間家と一緒にいるとのことで、朝食を食べて病院まで来なさいとのメッセージも残っていた。スマホの電源を入れれば、緊急連絡がたくさん入っており、それは友人知人にも及んでいて彼らのショックも大きいと伝わってきた。

 ほとんどの内容が悲しみや死を惜しむ友人知人であり、敵対していたと思われた男子たちですら懺悔の内容になっていた。

 文字通り阿鼻叫喚(あびきょうかん)の嵐が村の学校界隈に吹き荒れている。
 その事から弄られる風間という男子が、本当は嫌われるような人間ではなかったことが伺える。

「私がホテルなんて行っている間に……どうしてスマホの電源すら入れていなかったのよ」

 太一がスマホを切れと命じたからだった。運命を感じさせるほどタイミングが最悪だった。

「それで、ケイくんが死んだって……?」

 震える声で確認の声を出す。

「そ、そんな……」

 まだ実感が湧かず、感覚的には嘘じゃないか? とか、亡くなったのは誤報で、大怪我は負っているものの生存していると、圭一の死を認めることが出来ない状態だった。

「隣の家が真っ暗で静かで誰もいなかったのはこのせいなの?」

ケイくん(圭一)と仲直りも出来ずに、このままお別れじゃ嫌)

 自転車にまたがり、村立病院に走った。霊安室の場所を受付の医療秘書に教えてもらって速歩で進み、トントンと軽くノックをした後、ドアを開けて中に入った。

(や、やっぱり……)

 霊安室の中では、圭一のご両親と母親が椅子に座っており、三人とも(うつむ)いて涙をぬぐっていた。横に白い毛布と白い布を顔に被せられた圭一の遺体があった。

「ケイくん……ケイくん、いなくなっちゃったの? ケイくん……」

 加代が大切な幼馴染の圭一が亡くなっているのを初めて認識した瞬間だった。

 力なくフラフラと寝かされている圭一に近づいた。

 ◇

『加代ちゃん、よく来てくれたね、ありがとう』

 座りながら圭一のおばさんが声を掛けてくれた。私は目を合わせてお辞儀をしたけど、声は出なかった。あまりにも頭が働かなかったからだ。

 私の母親は何も言わずに目がうつろだった。彼、圭一のことが母は好きだった。素直で礼儀正しく、男の子らしくもあって、よく仲良くしなきゃ駄目よ、と私に言っていた。

『テーブルの上の朝ごはん、食べてきた?』

 私は頷いた。早く圭一に会いたい為お腹に入れるだけの朝食だった。

『あのね、加代ちゃんに見てもらいたいものがあるの。この後で家に戻ったら見てほしい圭一の日記。いいかな?』

 心、ここにあらずといった感じでおばさんが笑顔を頑張って作って話した。私はなぜか失恋のような感じを覚えて目を泳がし、何が何でも声を出そうと頑張った。

「はい、もちろんです、おばさん。読ませてください」



 後にタクシーに自転車を積んで、おばさんと一緒に圭一の家に戻って、すぐに手渡されたのが十五冊にも及ぶ彼の日記だった。

『この日記にはね、信じられることが書かれているの。でもね、加代ちゃんからしたら信じられないこともいっぱい書いてあるわ。おばさんたちもね、その日記はとても大切なものになってるの。本当は加代ちゃんに持っていてもらいたいんだけど、あげられなくてゴメンなさいね』

 まだ、おばさんの喋りは流ちょうではなかった。私は頷いた。

「分かりました。今から一気に読ませて頂きます」

『うん、しっかり読んでね。また後で感想を聞かせて頂戴。私は葬儀の準備や打ち合わせ、親戚への連絡で病院に戻るから、圭一の部屋を自由に使ってね』

「はい」

 ◇

 その後、圭一の日記を読んだ私は、内容のショックさに気絶して卒倒していたらしい。
 気がついたら圭一の使っていたベッドに寝かされていた。
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