氷の旦那さまに愛されて、15歳の私ははじめての恋を知る。

番外編:氷の旦那さまは、甘いお菓子よりも……?

千歳家が完全に没落し、お屋敷に本当の平和が訪れてから数ヶ月。
15歳になった私は、皇家のお世話係の皆さんに優しく教えてもらいながら、少しずつ花嫁修業を始めていた。
「よし……! 美味しく焼けた……かな?」
オーブンから漂う、バターと砂糖の香ばしく甘い匂い。
実家では台所に立つことすら許されなかった私が、今日、初めて自分の手でクッキーを焼き上げたのだ。
不格好だけれど、一生懸命作った初めてのお菓子。
これを大好きな清正様に食べてほしくて、私は可愛いラッピングに包み、ドキドキしながら書斎のドアを叩いた。
「清正様、小雪です。入ってもよろしいでしょうか……?」
「小雪か。いつでも入ってくれ」
中に入ると、机に向かって難しい書類を読んでいた清正様が、私を見た瞬間にパッと表情を和らげた。
今では私にしか見せない、とろけるような優しい笑顔だ。
「どうした? 俺に会いに来てくれたのか?」
「はい……あの、これ、清正様に食べてほしくて。今日、初めてお菓子作りに挑戦してみたんです」
小さな包みを差し出すと、清正様は一瞬驚いたように目を見開き、それから宝物を受け取るように、そっと両手で包みを手にとった。
「お前が、俺のために……? 嬉しいな。開けてもいいか?」
「はい! でも、少し形が悪くて……味も自信がなくて……」
自信がなくて俯く私を他所に、清正様はさっそくクッキーを一口かじった。サクッ、と心地いい音が書斎に響く。
「……っ!」
「あ、あの……美味しくないですか……?」
不安になって顔を覗き込むと、清正様は片手で口元を押さえ、耳まで真っ赤に染めてプルプルと震えていた。
「……美味すぎる。信じられないほど美味い。小雪、お前は天才か? こんなに心のこもった美味い菓子は生まれて初めて食べた……!」
「本当ですか……!? よかったぁ……」
ホッとして胸をなでおろすと、清正様は残りのクッキーを大事そうに味わったあと、急に真剣な目をして椅子から立ち上がり、私に近づいてきた。
「清正様……?」
気がつくと、私は書斎の壁と清正様の大きな身体の間に挟まれていた。
いわゆる『壁ドン』の格好に、心臓がバクバクと激しく鐘を鳴らし始める。
清正様は私の腰に手を回し、至近距離で、低く甘い声を響かせた。
「クッキーは最高に美味しかった。……だがな、小雪。俺は甘いお菓子よりも、一生懸命に俺のために料理を作って、今こうして真っ赤になってるお前の方が、何百倍も甘くて美味しそうに見える」
「ひゃっ……!? き、清正様……っ」
お姉さまを睨みつけていた時の『氷の旦那さま』はどこへやら、今の清正様は獣のような熱い瞳で私をじっと見つめている。
「一日中仕事を頑張ったんだ。……ご褒美に、お前をたくさん甘やかしてもいいだろう?」
断る隙なんて、最初から与えてくれない。
清正様は愛おしそうに目を細めると、私の唇に、クッキーよりもずっと甘い、深い深いキスを落としたのだった。
お屋敷の誰もが恐れる「氷の旦那さま」は、今日も私の前だけで、優しく、熱く、甘くだらしなく溶けてしまうのだった。



(番外編・おわり)
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