Hidden love.
 家に着き、着替え終わると、大樹がソファに座った状態で「なあ?」と声をかけてきた。


「何?」

「一人紹介したい人がいるんだけど、電話してもいい?」

「いいけど。誰? 友達?」

「いや、兄貴」


 兄貴?

 突然の流れに唖然とした。こちらは着替えて髪もバンドで上げて、メイク落とす気満々のオフ全開の格好で、スイッチなんか入らない。

 こんな状態でお兄さんとまともに会話なんてできるだろうか。

 大樹においでと手招きをされ、恐る恐るソファのように近寄る。


「何。その新しい家に来たての飼い猫みたいな反応は」

「ま、まさかお兄さんと話すなんて思っていなくて、覚悟が足りなかった」

「なんの覚悟だよ」


 苦笑いする大樹の隣に座り、電話のコール音が鳴るのを聞いている。

 大樹のお兄さんとは、会ったことがない。確か、四つか五つ程、離れているとは聞いたことがあるような気がするけれど、情報は本当にそんなものだ。

 コール音が病むと機械を通して『もしもし?』と落ち着いた声が聞こえてきた。その声は若干大樹に似ているかもしれない。


「もしもし? ご無沙汰」

『久しぶり。どうかした?』

「実は近々結婚しようと思っていて」

『結婚? 彼女なんて前から居たっけ』

「いや、そうじゃないんだけど。前から片思いしていた人と」


 その説明に照れくさくなる。電話の奥で、大樹のお兄さんは、『そっか』と言いながら笑っていた。

 電話からも柔らかな雰囲気が大樹と似ていると感じる。


「兄さんは?」

『まあ、うちもぼちぼち。と言っても、彼女もまだいろいろあるから、タイミングみてそのうち』

「そっか。実季《みのり》さんは元気?」

『元気だよ。今は、安住《あずみ》さんに漬物の漬け方教わってる』


 確かに電話の奥からうっすらと朗らかな笑い声が聞こえてくる。
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