レディ・マーメイド
「わあ、なんて豪華なの」

戸惑いつつも、樹莉はテーブルに並べられた朝食に目を奪われる。

ふかふかの椅子に座って、早速いただくことにした。

「んー、美味しい! 気分はセレブね」

笑みを浮かべながら味わい、紅茶を飲んでひと息ついていると、再びチャイムが鳴る。

神谷が、カバーのかかったドレスを手に戻って来た。

「失礼いたします。お着替えをお持ちしました。樹莉さまのお好みのドレスはございますか?」

そう言って神谷は、壁のハンガーフックにドレスを掛けた。

アクアブルーでシンプルなデザインのものや、パステルピンクでパフスリーブのキュートなもの、ワインレッドで大人っぽいもの、3着ある。

「えっ、これを私に?」
「はい。樹莉さまの身の回りのものを一式用意するようにと仰せつかっておりますので。昨夜お召しのものはクリーニングいたしますね。こちらでしょうか?」

神谷は、樹莉がクローゼットに掛けておいたホテルの制服に目をやる。

ベストとタイは更衣室のロッカーに置いてきたので、ここにあるのは黒のタイトスカートと白いブラウスだけだ。

「そうですけど、あの、ドレスは結構です。昨日の朝、職場に着て行った私服がカバンに入れてありますので」
「でしたらそちらも一緒にランドリーにお出ししますね。それからランジェリーはこちらのペーパーバッグにご用意しました。サイズが合わなければ交換しますので、ご試着いただけますか?」

え、あの、と戸惑う樹莉に、神谷は紙袋を持ったままパウダールームに向かう。

「樹莉さま、準備できました。どうぞ」
「あ、はい」

ごゆっくり、とドアを閉められ、樹莉は仕方なく試着してみる。

アイボリーで刺繍が施された見るからに高級そうなランジェリーは、着けてみるとサイズもピッタリだった。

(神谷さん、すごい。よくサイズがわかったわね。それになんて着け心地がいいの。スタイルもよく見える!)

角度を変えながら鏡に全身を映していると、ドアの向こうから神谷の声がした。

「樹莉さま、サイズはいかがですか?」
「はい、ピッタリです」
「ではドレスもお持ちしますね。どちらがよろしいですか?」

ええ!?と戸惑いつつ、「1番シンプルな水色のものをお願いします」と答える。

「かしこまりました。こちらはシルクタフタで、初夏らしい爽やかなブルーのドレスでございます。樹莉さまにお似合いかと」

そう言って手渡されたドレスを、言われるがままに着てみた。

「まあ、お美しい。よくお似合いですわ」
「いえ、そんな」

樹莉は思わずうつむく。

膝丈のノースリーブのドレスはまるでオートクチュールのように身体のラインがきれいに見え、うっとりするほどすてきだが、自分が着ているのがどうにも気恥ずかしい。

「あの、神谷さん。私はどうしてこんな格好を?」
「このホテルのドレスコードを考えますと、こちらがふさわしいかと」

なるほど、と樹莉は頷く。

(確かに今私が持ってる私服のジーンズとカットソーは、ロイヤルクレストではダメね)

納得していると、神谷が今度はドレッサーの前に樹莉を促し、ヘアメイクを整えていく。

「神谷さん、こんなこともできるんですね」
「本職ではないのですが……」
「いえいえ、プロのヘアメイクさんですよ」

メイクはナチュラルな仕上がりだが目元はくっきり、頬や唇も品のよいピンク色で、ハーフアップにした髪も毛先を軽く巻いてある。

「樹莉さま、とっても可愛らしくてエレガントですね」
「神谷さんのヘアメイクの腕前ですよ」
「そんなことはございません。さあ、では最後にシューズを。こちらはいかがでしょう?」

神谷に手を取られ、樹莉は足元に置かれたパールホワイトのシューズに足を入れる。

こちらもピタリとサイズが合い、樹莉は驚いた。

「神谷さん、超能力者なの?」
「ふふふ、そうですと申し上げたいのですが。実はクローゼットにあった樹莉さまのパンプスのサイズを拝見しました」
「そうだったんですね」
「ええ。でも内緒にしておけばよかったです」

そう言って残念そうに少し頬を膨らませてから、神谷は樹莉と顔を見合わせて、ふふっと笑った。
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