レディ・マーメイド
翌朝。
ロイヤルクレストのゲストルームで目覚めた樹莉は、着替えると神谷に促されて隣の部屋へ行く。

「おはよう、樹莉」

ダイニングテーブルでパソコンに向かっていた亜紋が、顔を上げた。

「おはようございます」
「よく眠れたか?」
「はい、ぐっすり」
「よかった。俺はこれから本社に行くけど、樹莉はゆっくり過ごしてくれ。帰りは黒木に送らせる」
「ありがとうございます」

そう答えたものの、昨夜のことが頭の中に蘇り、樹莉は亜紋の顔を見られない。

恥ずかしさと、申し訳なさと、寂しさと……ほんの少しの嬉しさ。
色々な感情で心がかき乱された。

(私も亜紋さんが好き。でもそれとここで暮らすことはまた別の話。まずはおつき合いから、ではダメなのかな? 亜紋さんは忙しくてデートなんかできないか。それに身分の違いも気になる。亜紋さんは九條グループの御曹司で、私はごく普通の家庭。住む世界が違いすぎるもの)

好きという感情だけで真剣な交際へと進展するには、あまりに乗り越えなければいけない壁が多い気がした。

「樹莉、どうかしたか?」

またもや亜紋が心配そうに様子をうかがう。
昨夜からずっとこんな調子だ。

「ごめんなさい、なんでもないです」

気を取り直して笑みを浮かべ、美味しそうな朝食に「いただきます」と手を合わせた。
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