レディ・マーメイド
芙蓉の間に着くと、席で待ち構えていた支配人が立ち上がる。

「和田社長、本日はわざわざお越しくださってありがとうございます」
「とんでもない。こちらこそお詫びに伺ったというのに、おもてなしいただいて恐縮です」
「いえいえ。さあ、どうぞお座りください」

二人が腰を下ろしてから、樹莉も末席に座った。

ドリンクで乾杯すると、すぐに和田社長が切り出す。

「この度は弊社の前社長である金盛が、多大なるご迷惑をおかけしました。謹んでお詫び申し上げます」

深々と頭を下げる和田に、支配人は笑顔で首を振った。

「和田社長が謝ることではありませんよ。それにこちらは特に大きな被害もこうむっておりません。ただ、スタッフの小早川が犯人と接触したようですので、詳しいことをご説明しようと彼女を同席させました。小早川さん、経緯を説明してくれるかな」
「はい、かしこまりました」

話を振られて、樹莉はあのパーティーの夜のことから順を追って説明する。

初めはなぜ男に襲われたのかわからなかったこと。
たまたま通りかかった亜紋に助けられたこと。

犯人が捜しているのがコースターだと気づいたが、目ぼしいものは見つからなかったこと。
今度は更衣室で女に襲われたが、黒木のおかげで助かったこと。

コースターにつけられていた暗号シールが自分の手帳に思わぬ形で貼られており、その謎を亜紋が解いたこと。
そして亜紋は金盛や須藤と対峙し、自供を録音したデータを和田社長に送ったことを。

全てを聞き終えると、和田は深いため息をついた。

「そんなにも大変な日々だったのですね。小早川さん、重ね重ね申し訳ありませんでした。どんなに不安な毎日を過ごされていたかと思うと、お詫びのしようがありません」
「いいえ、九條亜紋さんのおかげで私は助けられました。安全に守ってくださったのも九條さんや黒木さんです」
「そうでしたか。私はてっきり亜紋くんとあなたは以前からのお知り合いかと思っていましたが、たまたま居合わせたのですね。亜紋くんがいてくれて本当によかった」
「はい。私ももし九條さんが通りかかってくれなかったらと思うと、身がすくむ思いです」

支配人もようやく全貌が見えたようで、納得したように頷いた。

「とにかくこれで一件落着です。和田社長、これからは心機一転、ゴールデンワールドホテルを盛り上げてくださいね。同じホテル業界として助け合っていきましょう」
「ありがたいお言葉、痛み入ります。必ずよいホテルに生まれ変わらせてみせます」

和田社長は力強くそう言った。
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