レディ・マーメイド
年が明け、国際博覧会『フラワーエキスポ』に向けて樹莉も亜紋も仕事が忙しくなる。

その合間に、亜紋は着々と樹莉との結婚に向けて準備を進めていた。

両家の挨拶を済ませると、仕事のパーティーにも樹莉を連れて参加し、婚約者だと紹介する。

そしてパレ・ド・フローラにも通いやすい住宅地に、2階建ての家を建てた。

こだわりはオープンテラスと広い庭だ。

樹莉の好きな花をたくさん育てよう。

夜はオープンテラスで、二人で星を見上げよう。

子どもが生まれたら、庭にテントを張って楽しもう。

大きなプールで水遊びもいいかもしれない。

そこまで考えて、亜紋はふと笑みをもらした。

(樹莉が溺れない程度のプールをな)

貝殻の中の人魚姫のように可愛らしいのに、樹莉はなぜか溺れる。

ジャグジーでも溺れた。

(人魚姫には俺がついていないとな)

すると車を運転していた黒木が、ミラー越しに声をかけてきた。

「亜紋さん、どうかしましたか?」
「ん? 別に」
「そうですか。なにやら不気味だったので」
「おい黒木、どういう意味だ?」
「だってコワモテなのに口元緩めてニヤッとされたら、なにか企んでるのかと怖くなりますよ」
「アホ! 俺の樹莉への愛をなんだと思ってる」

ええ!?と黒木が仰け反った。

「愛する人を思い浮かべた顔がそれですか?」
「なんだ、文句あるか」
「ないですけど、わかりづら……」
「うるさい! 樹莉はこんな俺でも好きって言ってくれるんだからな」
「逃げられないように気をつけてくださいね」
「逃がすか!」

おおー、こわっと首をすくめて、黒木は前に向き直った。
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