失恋した夜、三白眼のエリート海上自衛官に恋しました
知り合った。
夜の海で少し話しただけ。『知り合った』で間違いない。
それだけの関係。
理解してはいるのに、その言葉に少しだけ寂しさを感じてしまった。
「ちょっと、涼帆! なによあんた、実はもうイイ人いたの!?」
小声で私に耳打ちする美咲は相変わらずこういう話が大好物だ。
「イイ人っていうか……ちょっとね」
「もうー! 何よ〜!」
美咲は私の肩をバシバシと叩いて楽しそうにしている。
ドリンクと食べるものを注文して、さっそく自己紹介から始まった。
男性三名は左側から久瀬さん、濱田さん、荒川さん。
階級は違うけど、小学生からの付き合いなのだという。
そんな話を聞きながら、目の前に座る彼に、自分の気持ちを悟られまいと振る舞おうとすればするほど、目線が泳いで不自然になる。
気づけばお酒とツマミが何品かテーブルに揃っていて、すっかりみんなは盛り上がっていた。
「じゃあ久瀬さんは防衛大出身の幹部なんだー!」
「うちは自衛隊一家なもので。祖父の強い勧めで入学しただけですよ」
「えー、それで防衛大に合格するのスゴいですよ! ね、涼帆!」
「……え、あっ、う、うん」
完全に怪しまれた。
まさかの再会をした衝撃で、すっかり脳はフリーズ状態。何の話をしていたのかわからない。
「久瀬さんがタイプなのね、オッケー、私がいろいろ動くから安心しな!」
耳元で囁いたあとに、小さく親指を立てて力強く「グー!」と見せつけてきた。
美咲は昔からこうだ。
「ちなみに、みなさんの階級って聞いてもいいですかー? 失礼かもですけど、そういうリアルを聞いてみたくて〜」
里香がそれとなく細かいところまで聞き始める。
私はどんな内容であれ、彼のことを少しでも多く知ることができるなら、ありがたかった。
「俺らは二曹だけど、こいつは一尉なんだよ。防衛大上がりだからな〜」
濱田さんの言葉に、美咲と里香が驚いた声を上げる。
「えー! すごい!」
「そんなことないです」
けれど私の意識は、そんな話より目の前の人に向いていた。
久瀬さんがグラスを持ち上げる。
大きなゴツゴツとした手、太く長い指。
そして手の甲から前腕へと浮かぶ血管。
男の人の腕なんて今まで意識したこともなかったのに、なぜか目が離せない。
日に焼けた肌の下を走る浮き出た筋。
グラスを持つたびに、無意識にそちらを見てしまう。
「朝倉さん」
「ひゃいっ」
突然名前を呼ばれ、慌てて意識を戻す。
三白眼と目が合う。
キリッと切れ長の目は、どこか優しく私を見つめた。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫です」
「そうか」
短く答えた久瀬さんがグラスに口をつける。
お酒を飲み、喉仏が上下する。
しっかりと太く男性的な首筋にはうっすらと胸鎖乳突筋の筋が見える。
まずい。
認めたくないけれど、彼のことを完全に意識している。
「涼帆?」
美咲の声に我に返る。
「大丈夫? ぼーっとして……顔赤いよ?」
「えっ」
「もしかして酔った?」
「違う違う! 酔ってない、大丈夫っ」
慌てて否定する。
けれど本当の理由なんて言えるわけがない。
久瀬さんに見蕩れていたなんて。
ましてや、その腕に走る血管や瞳に見惚れていたなんて……。
絶対に言えない。
慌てて取り繕う様子が久瀬さんにも伝わったのか、彼の口元が僅かに緩んでいた。
あの日の夜と同じ笑顔。
鋭い三白眼が少しだけ和らぐ。
その瞬間。
胸がどくりと大きく鳴った。
つい最近、失恋したばかりなのに。恋愛している余裕なんてないと思っていたのに。
どうして私は、この人を見るたびにこんなに落ち着かなくなるんだろう。
夜の海で少し話しただけ。『知り合った』で間違いない。
それだけの関係。
理解してはいるのに、その言葉に少しだけ寂しさを感じてしまった。
「ちょっと、涼帆! なによあんた、実はもうイイ人いたの!?」
小声で私に耳打ちする美咲は相変わらずこういう話が大好物だ。
「イイ人っていうか……ちょっとね」
「もうー! 何よ〜!」
美咲は私の肩をバシバシと叩いて楽しそうにしている。
ドリンクと食べるものを注文して、さっそく自己紹介から始まった。
男性三名は左側から久瀬さん、濱田さん、荒川さん。
階級は違うけど、小学生からの付き合いなのだという。
そんな話を聞きながら、目の前に座る彼に、自分の気持ちを悟られまいと振る舞おうとすればするほど、目線が泳いで不自然になる。
気づけばお酒とツマミが何品かテーブルに揃っていて、すっかりみんなは盛り上がっていた。
「じゃあ久瀬さんは防衛大出身の幹部なんだー!」
「うちは自衛隊一家なもので。祖父の強い勧めで入学しただけですよ」
「えー、それで防衛大に合格するのスゴいですよ! ね、涼帆!」
「……え、あっ、う、うん」
完全に怪しまれた。
まさかの再会をした衝撃で、すっかり脳はフリーズ状態。何の話をしていたのかわからない。
「久瀬さんがタイプなのね、オッケー、私がいろいろ動くから安心しな!」
耳元で囁いたあとに、小さく親指を立てて力強く「グー!」と見せつけてきた。
美咲は昔からこうだ。
「ちなみに、みなさんの階級って聞いてもいいですかー? 失礼かもですけど、そういうリアルを聞いてみたくて〜」
里香がそれとなく細かいところまで聞き始める。
私はどんな内容であれ、彼のことを少しでも多く知ることができるなら、ありがたかった。
「俺らは二曹だけど、こいつは一尉なんだよ。防衛大上がりだからな〜」
濱田さんの言葉に、美咲と里香が驚いた声を上げる。
「えー! すごい!」
「そんなことないです」
けれど私の意識は、そんな話より目の前の人に向いていた。
久瀬さんがグラスを持ち上げる。
大きなゴツゴツとした手、太く長い指。
そして手の甲から前腕へと浮かぶ血管。
男の人の腕なんて今まで意識したこともなかったのに、なぜか目が離せない。
日に焼けた肌の下を走る浮き出た筋。
グラスを持つたびに、無意識にそちらを見てしまう。
「朝倉さん」
「ひゃいっ」
突然名前を呼ばれ、慌てて意識を戻す。
三白眼と目が合う。
キリッと切れ長の目は、どこか優しく私を見つめた。
「大丈夫か」
「だ、大丈夫です」
「そうか」
短く答えた久瀬さんがグラスに口をつける。
お酒を飲み、喉仏が上下する。
しっかりと太く男性的な首筋にはうっすらと胸鎖乳突筋の筋が見える。
まずい。
認めたくないけれど、彼のことを完全に意識している。
「涼帆?」
美咲の声に我に返る。
「大丈夫? ぼーっとして……顔赤いよ?」
「えっ」
「もしかして酔った?」
「違う違う! 酔ってない、大丈夫っ」
慌てて否定する。
けれど本当の理由なんて言えるわけがない。
久瀬さんに見蕩れていたなんて。
ましてや、その腕に走る血管や瞳に見惚れていたなんて……。
絶対に言えない。
慌てて取り繕う様子が久瀬さんにも伝わったのか、彼の口元が僅かに緩んでいた。
あの日の夜と同じ笑顔。
鋭い三白眼が少しだけ和らぐ。
その瞬間。
胸がどくりと大きく鳴った。
つい最近、失恋したばかりなのに。恋愛している余裕なんてないと思っていたのに。
どうして私は、この人を見るたびにこんなに落ち着かなくなるんだろう。