白い薔薇が花ひらくまで〜総合病院の跡取り令息のコレクション〜

2 ピアニスト

「お前って変だし、つまんないんだよ」


そう言って背中を向けた。


「別れよう」


雨が降りしきる。
ラベンダー色のワンピースは濡れて、ベージュのパンプスは泥がついている。

ビニール傘をさした彼氏の背中が次第に遠くなっていく。

蕾の肩は小刻みに震えていた。


――ホテルに誘われた。


歌舞伎町のラブホテルの入り口。
手を引っ張られた。
「やめて!」と、振り払った拍子に蕾は尻もちをつく。


「何なんだよ! 俺のことが嫌いなのかよ!」


3年と2カ月。
蕾も何度も彼とベッドに入ろうと試みた。
やっぱり駄目だった。
ホテルの前までくると胃がキリキリする。
いや、今の彼氏だけじゃない。
これまで付き合ってきた人たち、全部。


(……どうしても、できなくて)


歌舞伎町のラブホテル街を、肩を寄せ合った男女が通り過ぎていく。
蕾だけが雨の中に取り残されていた。


(私もあんな風に……できたら)


胃の不快感が喉までこみあげてくる。蕾は口元をハンカチで覆った。

曇天の空に目を向ける。


「誰でもいい……」


こんな私を変えてほしい――。
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