君の余命に僕の初恋を捧ぐ
最終章:三歳の初恋
6月23日
今日、クラスで席替えがあった。嘘みたいだ。日和が、僕の隣の席になった。
日和は覚えていないよね。当たり前だ、もう十何年も前のことだから。
でも、僕は一瞬でわかったよ。君が、僕の最初の光だったから。
日記に書かれていたのは、康太がまだ3歳だった頃の記憶だった。
当時、病気の兆候が出始めて不安だった幼い康太は、近所の公園の砂場で、一人で泣いていた。
そこに声をかけてくれたのが、少し年上の、優しい笑顔を浮かべた女の子だった。
女の子は、泣いている康太の頭を撫で、「大丈夫だよ」と言って、ポケットから丸いドロップをくれた。
その女の子こそが、幼い日の小林日和だった。
あの公園で日和に恋をしてから、僕の初恋はずっと君だった。
中学の教室で再会できたとき、神様がくれた奇跡だと思った。
だけど、僕の病気は意地悪だ。
お医者さんは言った。これから病気が進むと、僕は一番大切に思っている人の記憶から、順番に失くしていくんだって。
一番大切に思っている人。それは、日和、君のことだ。
明日起きたら、君の笑顔を忘れているかもしれない。
明後日には、君の名前を呼べなくなっているかもしれない。
そんなの、耐えられないよ。日和を傷つけたくない。
何より、日和を大好きな僕の心のまま、僕は終わりたいんだ。
だから、ごめんね。生きるのを諦めたんじゃないんだ。
僕は、日和との思い出を永遠にするために、この選択をする。
日記の最後のページには、掠れた文字で、こう結ばれていた。
明日を生きる少女、小林日和へ。
昨日を生きる少年、斎藤康太より。
わがままを許して。そして、お願い。
きみの心から、僕を消さないで。
「……っ、う、あぁああ……!」
日和は日記を抱きしめ、声を上げて泣いた。
康太が選んだ結末は、絶望なんかじゃなかった。
日和への、純粋すぎる、命がけの愛を永遠に守るための選択だったのだ。
彼の短い生涯のすべてが、3歳のあの頃からずっと、自分に向けられていた。
窓の外を見上げると、雲の隙間から、眩しい木漏れ日が差し込んできた。まるで康太が「泣かないで」と笑いかけているかのように。
「消さないよ……絶対に、消さない」
日和は涙を拭った。
胸の奥にある、彼が命を懸けて守ってくれた「昨日」の記憶。
それを抱きしめて、彼女は歩き出す。
康太が愛してくれたこの世界で、彼の分まで、強く、前を向いて。
——それは、世界の誰よりも短い、だけど誰よりも永遠の恋。
(完)
今日、クラスで席替えがあった。嘘みたいだ。日和が、僕の隣の席になった。
日和は覚えていないよね。当たり前だ、もう十何年も前のことだから。
でも、僕は一瞬でわかったよ。君が、僕の最初の光だったから。
日記に書かれていたのは、康太がまだ3歳だった頃の記憶だった。
当時、病気の兆候が出始めて不安だった幼い康太は、近所の公園の砂場で、一人で泣いていた。
そこに声をかけてくれたのが、少し年上の、優しい笑顔を浮かべた女の子だった。
女の子は、泣いている康太の頭を撫で、「大丈夫だよ」と言って、ポケットから丸いドロップをくれた。
その女の子こそが、幼い日の小林日和だった。
あの公園で日和に恋をしてから、僕の初恋はずっと君だった。
中学の教室で再会できたとき、神様がくれた奇跡だと思った。
だけど、僕の病気は意地悪だ。
お医者さんは言った。これから病気が進むと、僕は一番大切に思っている人の記憶から、順番に失くしていくんだって。
一番大切に思っている人。それは、日和、君のことだ。
明日起きたら、君の笑顔を忘れているかもしれない。
明後日には、君の名前を呼べなくなっているかもしれない。
そんなの、耐えられないよ。日和を傷つけたくない。
何より、日和を大好きな僕の心のまま、僕は終わりたいんだ。
だから、ごめんね。生きるのを諦めたんじゃないんだ。
僕は、日和との思い出を永遠にするために、この選択をする。
日記の最後のページには、掠れた文字で、こう結ばれていた。
明日を生きる少女、小林日和へ。
昨日を生きる少年、斎藤康太より。
わがままを許して。そして、お願い。
きみの心から、僕を消さないで。
「……っ、う、あぁああ……!」
日和は日記を抱きしめ、声を上げて泣いた。
康太が選んだ結末は、絶望なんかじゃなかった。
日和への、純粋すぎる、命がけの愛を永遠に守るための選択だったのだ。
彼の短い生涯のすべてが、3歳のあの頃からずっと、自分に向けられていた。
窓の外を見上げると、雲の隙間から、眩しい木漏れ日が差し込んできた。まるで康太が「泣かないで」と笑いかけているかのように。
「消さないよ……絶対に、消さない」
日和は涙を拭った。
胸の奥にある、彼が命を懸けて守ってくれた「昨日」の記憶。
それを抱きしめて、彼女は歩き出す。
康太が愛してくれたこの世界で、彼の分まで、強く、前を向いて。
——それは、世界の誰よりも短い、だけど誰よりも永遠の恋。
(完)