メイドインダーク(マフィア令嬢と少年メイドのインモラル逃亡潜伏)

第三話「パンドラの記憶」(前)


 たとえば「G線上のアリア」なんてクラシックの名曲があったけれど。
 自分の場合は人生が「K点」を越えてしまっている。
 彼女の実感としての人生とは、どこぞのアイドル歌謡の長閑な「紙飛行機」などという生温いものでは断じてなくて、むしろ「K点越えの連続」なのだ。本日のアナルセックス初体験も然り、これまでの諸々の異常な経験とアクシデントの数々も然り、本日の突発アナルセックスも然り、究極的には「死」さえもその延長でしかないのだろう。
 今や十九歳のマリアは「アナル処女」喪失の甘酸っぱい疼きを噛み締めつつ、ソファであまりにやるせなく現実離れした現実への憂愁と物思いに耽るのだった。ケネディはシャワーとようやくの夕食(ロールキャベツ)後にすっかり力尽きておねむになってしまったようで、保護車兼ご主人様の膝枕でスヤスヤと寝息を立てている。
『私のアナル処女、強引に奪ってくれちゃって! いつの間にか、すっかり男の子になっちゃってさァ……』
 二人でシャワーを浴びたとき、ほっぺを人差指突っついてやった。
 ケネディ君は照れたような誇らしいような顔で目を逸らすのだった。
 そして今は、さながら無心に眠る子猫のような面差しに「塩を(お礼に)包んで子猫を貰ってきた、鼠から大事な書物を守ってくれるけれども、貧しくて食卓に魚もなくてなんだか申し訳ない」などという、古い中国の詩を思い出す(南宋の陸某とかいう田園詩人、当時は塩が王朝政府の専売品だったため)。もっとも彼女の場合には「(裏切りの返礼に)鉛弾をブチこんで幼い息子を強奪してきた、心身両面の支えになってくれて有難いけれども、取り返しのつかない酷い目に合わせて、狂気の渦と破滅の運命に巻き込んで本当に御免なさい」だろうか。
 ブラックジョークにも程があるけれども、これがリアル(現実)なのだから洒落にならない。深い理由だの経緯だのが重なり、奇妙かつ絶妙に組み合わさって、気がついたらこうなってしまっていたのだ。

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