メイドインダーク(マフィア令嬢と少年メイドのインモラル逃亡潜伏) ※長編・一括掲載(R指定)
4
「マリアさまじゃ、なかったんですね」
だんだんに空に飽和していく曙光がカーテンを明るく染め照らしていく朝。
抱き合い眠るベッドで、目覚めたケネディの最初の言葉がそれだった。
「……」
薄らボンヤリとまどろんでいたマリアは、言葉の意味を理解したときに急に目が覚めたようだった。ほんの数センチしか離れていない眼差しにハッキリと驚きの色が浮かぶ。
幼き日にケネディの肉体を理不尽に破壊したのはマリアではない。
まさか、その記憶が戻ったのだろうか?
二人分の体温と体臭に穏やかに満たされた毛布の中で、二人は相伝の蜜儀のように目線を見交わし、お互いの呼吸と鼓動を探り合う。抱き合うように直に触れ合っているだけに、口に出さずとも心の中の動きや密かな感情と動揺は無言の内に通じ合うかのようだった。
いつもと変わらない寝起きの小さく親密な平和。それなのに新鮮な驚きの彩どりと希望の色彩が添えられているようだった。肌で触れ合う鼓動と呼吸から察すれば、ケネディの胸中に敵意はなく、マリアの愛情にも変わりがない。ただ、新しい未来からの光のようなものが、相照らす光信号のように明度を散りばめるかのようだった。
黙ったまま、全てを分かり合っている気持ちになれるのは幸福な瞬間だ。
それでも確認やコミュニケーションには、結局は言葉が必要なのだった。人間にとってはそんな不可避の距離と断絶こそが、一等にまどろっこしくて厄介であるくせに、きっと一番の楽しみの部分でもあるんだろう。
しばし息を潜めていてから、マリアが囁くように訊ねた。
「アンタ、記憶が……」
ケネディは添い寝に横たわったまま、小さく頷く。
それから少年メイドはそっと、枕の上のマリアの額、寝乱れた前髪の辺りにキスをする。
「思い出しました。……マリアお姉ちゃんが、僕を助けてくれたんです」
マリアはどう言葉を返せばよいのか、皆目ワカラナイ。
本当にケネディは回復したのか? そしてそうなら、何故こんなにも急に回復したのか?
これまでの生活での「リハビリ」の効果の蓄積に、昨晩のアナル処女強奪の勝利が何かしらの引き金にでもなったのかもしれなかった。
しかし記憶が戻って、正気になったというのならば、彼女が彼の両親を手にかけた一連の事情もハッキリ思い出して、本当の意味を理解したのではないのか。それならば普通は「親の仇」ということになりかねないだろうし、心理的な葛藤があるのが当たり前なのだ。
だからこそ迷う。この被保護者であり、最も忠実な従者でもある少年が、果たしてどこまでまともな精神状態なのかと。この二年間のリハビリが功を奏したのだとしても、現在のケネディの内面のメカニズムがどうなっているのかなど、なまじっか記憶や心理の状態が「変化」しただけに、これまでの経験からの憶測で読めるはずもないのだ。
なんだか知らない誰かになってしまったような寂しさと、一抹の不気味さが過ぎる。
するとマリアの胸中に急に孤独感が広がってきて、それを埋めようとするように、不安と焦燥が告白へと急きたてる。
「私が……私は……」
責められるはずの諸々の事柄が頭の中を駆け巡って上手く言葉にならない。
躊躇いながら言いかけたとき、少年メイドがふいにムクリと起き上がる。
「朝ごはん。準備してきますね」
ベッドを降りて身支度する少年に、マリアは話しかけようとして何も言えない。
そして台所で平静に立ち回る気配を聞きながら、マリアは逡巡しながらノロノロと、着替えをしようかと立ち上がる。
彼女は少しだけ「死」を覚悟した。
自分がこれまでにやったことを考え合わせれば、殺されても文句は言えないだろう。
ケネディのいる台所には包丁がある。
この寝室の鏡台の抽斗には、あのトカレフの拳銃がある。
そしてそんなことを、たとえ一瞬でも考えた自分自身に激しい嫌悪感を覚えた。
(もし刺し殺されても、仕方ないかな……)
ケネディを撃ち殺してまで生き延びるだなんて、おおよそ馬鹿げた思いつきだった。
そんなことをしたら「最後に残っていた全て」を失うに等しいだろう。その瞬間に自分の人生はたぶん、完全に無価値になることが目に見えている。あの少年との関係は、マリアにとって最後に残った正気と人間らしい感情そのもので、それを否定して生き延びたところで精神的な自殺と同じことだった。
そうなったとしたら、おそらくは死ぬよりも悲惨で悪いことになる。もはや理性を保てないだろうし、全ての気力を失って二度と立ち上がれず、定番コースで「道を誤った、損なわれた女」として落ちるところまで落ちるのが関の山だろう。
だったらまだ、愛しいケネディに引導を渡して貰った方が数段マシというものだ。自分なりには「愛していた」とだけでも伝えられたら心だけでも救われるだろうし、節操も尊厳も体裁も、人間らしい感情の一片までも失っていって、そこいらで溝鼠のような死に方をするよりはまだ幸福なのかもしれない。
そんなことを考えていて、また自嘲的な気分になる。これも「愛情」といえば聞こえは良いかもしれないが、これもしょせんは一種のエゴイズムなのかもしれない。
(今私が死んじゃったら、あの子はどうなるのかしら?)
まず第一に考えるべきことに思い至って、新しい不安が暗く膨れてくる。
ちゃんと日本に返って、まともな人生へと戻ることが出来るのだろうか?
途端に心配になってオロオロと寝室を見回す。
あの母方の親戚の小母さんの紹介でたまに見舞いに来てくれる、かかりつけの黒人医師のジョニー先生はケネディのことを知っている。けれどもはたしてケネディが自分を殺したとして、大人しくジョニー先生が定期訪問に来るまでこの部屋にいるかどうかは疑問だった。それにそんな不慮の事態になったら、ジョニー先生や小母さんが「飼い主殺し」になったケネディをどういう扱いにするかわかったものではない。
このマンションの住人たちだってケネディのことをどこまで助けてくれるか怪しいものだったし、仮にこの国(国外逃亡して潜伏中の異国!)の警察に保護されたところで、無事に日本まで送ってもらえる補償などありはしないのだ。おまけに故郷に上手く帰国したとしても、日本の社会で再びちゃんと生きていけるかどうかとなると、甚だ疑わしい。
この二年間に誤魔化して圧殺してきた不安な感情が一気に噴出してきたようで、マリアはヘナヘナとベッドの縁に座り込んでしまう。
泣きたい気分だった。
額を押さえてどうしたものかとメランコリーに耽るのは母親譲りのロシア気質なのか?
(ああ! もっと、いざってときの準備くらいしとくんだった……)
もしも緊急時連絡先に日本の大使館の住所と電話番号だけでもわかる場所にメモしておいて、パスポートの仕舞ってある場所やなんかもメモで一緒にわかるようにしておくべきだった。あるいは事前に口頭であっても、せめて必要最小限のことだけでも教えておけば、自分が頓死しても彼が地力で助かってくれる見込みがあっただろうに……。
マリアは自分の迂闊さと不用意さを呪った。
やがていつものような、どこか違っているような呼び声がした。
「マリアさま、ご飯出来ました!」
なんだか優しくて、ホッと安心させるような香りが漂ってきていた。漠然とした思案に暮れていたこの二十分ほどで、トーストとコーヒー、スクランブルエッグの朝ごはんが出来上がったらしい。
マリアは覚悟を決めて立ち上がる。まだ肌着だけの姿だったので、手近にあった濃紺のワンピースをかぶって、靴下も履かずに部屋履きで寝室を出る。
そしてエプロンをつけたケネディと対座して食卓につく。当のケネディは平静そのもので、何の感情も浮かべずに恬淡としていつものようにしていた。
食事に手をつける前に彼女は口を切った。
「……日本の大使館の場所、インターネットで調べられる?」
「はい」
「パスポートと身分証明書の場所は……」
「知ってます」
「そう」
ほんの手短なやり取りの後で、マリアはアッサリと躊躇いもせずに食事に手をつける。
一つの仮定として毒でも入っていてもおかしくなかったが。
それでも彼女には拒否する気はサラサラなかった。
食べている間は二人ともひたすらに無言で、よくある食事中の沈黙が少しだけ気まずい。
それからコーヒーを全部飲んでから「もう一杯頂戴」とリクエストし、ゆっくりと飲みながらマリアは言った。
「あのときの拳銃。鏡台の引き出しに入ってるわ」
ケネディがピクリと肩を振るわせた。
マリアは震えそうな喉をどうにか押さえつけて続ける。
「持ってきて。……弾は入ってる」
食事を終えていた少年メイドは立ち上がり、そそくさと寝室に行ってトカレフを持ってくる。あの、自分の両親を殺した銃を。
銃身を持って、握りの部分を前にしてマリアに差し出す。
因縁のある主従はしばし見詰め合っていた。
「思い出したんでしょ? それで、私がアナタの両親にしたことも」
「ええ」
「……好きにしていいわよ」
マリアの言葉を受けて少年は大きく目を見開いた。
一呼吸の刹那、無表情な面差しの見慣れた瞳に様々な色彩の炎が踊ったような気がした。
「どうして欲しいんですか? 僕に殺して、楽にして欲しいとでも?」
ほんの少しだけ声の調子が昂ぶっている。
そしてケネディは静かに畳みかける。
「……生きるのに疲れて、いっそサッサと罰でも受けて死にたいとでも?」
「そうかもしれないわね」
やるせない返事をするマリアに、ケネディは訊ねる。
「僕が嫌いになった?」
「そんなこと、ないわ」
「そうですか」
ケネディは銃を持ち直して、銃身の先の銃口をマリアの顔に向けて突き出す。
「だったら『僕の』だと思って、しゃぶってください」
マリアは迷いなく、口を大きく開いた。
まるで飲み込むみたいにして、トカレフ拳銃の鋼鉄の銃身の先を深く咥え込んでいた。そのまま舌で堪能するみたいに舐めしゃぶる。半眼に朦朧とした目の彼女の手は知らぬ間に自分の股間に這っている。ワンピースのスカートの中を自らまさぐって自慰に耽る。
このまま死んでも良いと思いながら、マリアはケネディの差し出した銃身を一心にフェラチオし、ディープスロートでだんだんに本気で興奮して感じ始め、目つきを朦朧とさせる。だらしなく溢れたよだれが痴女の顎を伝い、パンティまでが湿ってしまっていた。
「んっ、むうっ……」
銃を両手で構え持ちながらケネディは不思議そうに眺めている。
「んっ、んんっ!」
マリアが小さく震える。どうやら軽くエクスタシーに達したらしい。
「マリアさまじゃ、なかったんですね」
だんだんに空に飽和していく曙光がカーテンを明るく染め照らしていく朝。
抱き合い眠るベッドで、目覚めたケネディの最初の言葉がそれだった。
「……」
薄らボンヤリとまどろんでいたマリアは、言葉の意味を理解したときに急に目が覚めたようだった。ほんの数センチしか離れていない眼差しにハッキリと驚きの色が浮かぶ。
幼き日にケネディの肉体を理不尽に破壊したのはマリアではない。
まさか、その記憶が戻ったのだろうか?
二人分の体温と体臭に穏やかに満たされた毛布の中で、二人は相伝の蜜儀のように目線を見交わし、お互いの呼吸と鼓動を探り合う。抱き合うように直に触れ合っているだけに、口に出さずとも心の中の動きや密かな感情と動揺は無言の内に通じ合うかのようだった。
いつもと変わらない寝起きの小さく親密な平和。それなのに新鮮な驚きの彩どりと希望の色彩が添えられているようだった。肌で触れ合う鼓動と呼吸から察すれば、ケネディの胸中に敵意はなく、マリアの愛情にも変わりがない。ただ、新しい未来からの光のようなものが、相照らす光信号のように明度を散りばめるかのようだった。
黙ったまま、全てを分かり合っている気持ちになれるのは幸福な瞬間だ。
それでも確認やコミュニケーションには、結局は言葉が必要なのだった。人間にとってはそんな不可避の距離と断絶こそが、一等にまどろっこしくて厄介であるくせに、きっと一番の楽しみの部分でもあるんだろう。
しばし息を潜めていてから、マリアが囁くように訊ねた。
「アンタ、記憶が……」
ケネディは添い寝に横たわったまま、小さく頷く。
それから少年メイドはそっと、枕の上のマリアの額、寝乱れた前髪の辺りにキスをする。
「思い出しました。……マリアお姉ちゃんが、僕を助けてくれたんです」
マリアはどう言葉を返せばよいのか、皆目ワカラナイ。
本当にケネディは回復したのか? そしてそうなら、何故こんなにも急に回復したのか?
これまでの生活での「リハビリ」の効果の蓄積に、昨晩のアナル処女強奪の勝利が何かしらの引き金にでもなったのかもしれなかった。
しかし記憶が戻って、正気になったというのならば、彼女が彼の両親を手にかけた一連の事情もハッキリ思い出して、本当の意味を理解したのではないのか。それならば普通は「親の仇」ということになりかねないだろうし、心理的な葛藤があるのが当たり前なのだ。
だからこそ迷う。この被保護者であり、最も忠実な従者でもある少年が、果たしてどこまでまともな精神状態なのかと。この二年間のリハビリが功を奏したのだとしても、現在のケネディの内面のメカニズムがどうなっているのかなど、なまじっか記憶や心理の状態が「変化」しただけに、これまでの経験からの憶測で読めるはずもないのだ。
なんだか知らない誰かになってしまったような寂しさと、一抹の不気味さが過ぎる。
するとマリアの胸中に急に孤独感が広がってきて、それを埋めようとするように、不安と焦燥が告白へと急きたてる。
「私が……私は……」
責められるはずの諸々の事柄が頭の中を駆け巡って上手く言葉にならない。
躊躇いながら言いかけたとき、少年メイドがふいにムクリと起き上がる。
「朝ごはん。準備してきますね」
ベッドを降りて身支度する少年に、マリアは話しかけようとして何も言えない。
そして台所で平静に立ち回る気配を聞きながら、マリアは逡巡しながらノロノロと、着替えをしようかと立ち上がる。
彼女は少しだけ「死」を覚悟した。
自分がこれまでにやったことを考え合わせれば、殺されても文句は言えないだろう。
ケネディのいる台所には包丁がある。
この寝室の鏡台の抽斗には、あのトカレフの拳銃がある。
そしてそんなことを、たとえ一瞬でも考えた自分自身に激しい嫌悪感を覚えた。
(もし刺し殺されても、仕方ないかな……)
ケネディを撃ち殺してまで生き延びるだなんて、おおよそ馬鹿げた思いつきだった。
そんなことをしたら「最後に残っていた全て」を失うに等しいだろう。その瞬間に自分の人生はたぶん、完全に無価値になることが目に見えている。あの少年との関係は、マリアにとって最後に残った正気と人間らしい感情そのもので、それを否定して生き延びたところで精神的な自殺と同じことだった。
そうなったとしたら、おそらくは死ぬよりも悲惨で悪いことになる。もはや理性を保てないだろうし、全ての気力を失って二度と立ち上がれず、定番コースで「道を誤った、損なわれた女」として落ちるところまで落ちるのが関の山だろう。
だったらまだ、愛しいケネディに引導を渡して貰った方が数段マシというものだ。自分なりには「愛していた」とだけでも伝えられたら心だけでも救われるだろうし、節操も尊厳も体裁も、人間らしい感情の一片までも失っていって、そこいらで溝鼠のような死に方をするよりはまだ幸福なのかもしれない。
そんなことを考えていて、また自嘲的な気分になる。これも「愛情」といえば聞こえは良いかもしれないが、これもしょせんは一種のエゴイズムなのかもしれない。
(今私が死んじゃったら、あの子はどうなるのかしら?)
まず第一に考えるべきことに思い至って、新しい不安が暗く膨れてくる。
ちゃんと日本に返って、まともな人生へと戻ることが出来るのだろうか?
途端に心配になってオロオロと寝室を見回す。
あの母方の親戚の小母さんの紹介でたまに見舞いに来てくれる、かかりつけの黒人医師のジョニー先生はケネディのことを知っている。けれどもはたしてケネディが自分を殺したとして、大人しくジョニー先生が定期訪問に来るまでこの部屋にいるかどうかは疑問だった。それにそんな不慮の事態になったら、ジョニー先生や小母さんが「飼い主殺し」になったケネディをどういう扱いにするかわかったものではない。
このマンションの住人たちだってケネディのことをどこまで助けてくれるか怪しいものだったし、仮にこの国(国外逃亡して潜伏中の異国!)の警察に保護されたところで、無事に日本まで送ってもらえる補償などありはしないのだ。おまけに故郷に上手く帰国したとしても、日本の社会で再びちゃんと生きていけるかどうかとなると、甚だ疑わしい。
この二年間に誤魔化して圧殺してきた不安な感情が一気に噴出してきたようで、マリアはヘナヘナとベッドの縁に座り込んでしまう。
泣きたい気分だった。
額を押さえてどうしたものかとメランコリーに耽るのは母親譲りのロシア気質なのか?
(ああ! もっと、いざってときの準備くらいしとくんだった……)
もしも緊急時連絡先に日本の大使館の住所と電話番号だけでもわかる場所にメモしておいて、パスポートの仕舞ってある場所やなんかもメモで一緒にわかるようにしておくべきだった。あるいは事前に口頭であっても、せめて必要最小限のことだけでも教えておけば、自分が頓死しても彼が地力で助かってくれる見込みがあっただろうに……。
マリアは自分の迂闊さと不用意さを呪った。
やがていつものような、どこか違っているような呼び声がした。
「マリアさま、ご飯出来ました!」
なんだか優しくて、ホッと安心させるような香りが漂ってきていた。漠然とした思案に暮れていたこの二十分ほどで、トーストとコーヒー、スクランブルエッグの朝ごはんが出来上がったらしい。
マリアは覚悟を決めて立ち上がる。まだ肌着だけの姿だったので、手近にあった濃紺のワンピースをかぶって、靴下も履かずに部屋履きで寝室を出る。
そしてエプロンをつけたケネディと対座して食卓につく。当のケネディは平静そのもので、何の感情も浮かべずに恬淡としていつものようにしていた。
食事に手をつける前に彼女は口を切った。
「……日本の大使館の場所、インターネットで調べられる?」
「はい」
「パスポートと身分証明書の場所は……」
「知ってます」
「そう」
ほんの手短なやり取りの後で、マリアはアッサリと躊躇いもせずに食事に手をつける。
一つの仮定として毒でも入っていてもおかしくなかったが。
それでも彼女には拒否する気はサラサラなかった。
食べている間は二人ともひたすらに無言で、よくある食事中の沈黙が少しだけ気まずい。
それからコーヒーを全部飲んでから「もう一杯頂戴」とリクエストし、ゆっくりと飲みながらマリアは言った。
「あのときの拳銃。鏡台の引き出しに入ってるわ」
ケネディがピクリと肩を振るわせた。
マリアは震えそうな喉をどうにか押さえつけて続ける。
「持ってきて。……弾は入ってる」
食事を終えていた少年メイドは立ち上がり、そそくさと寝室に行ってトカレフを持ってくる。あの、自分の両親を殺した銃を。
銃身を持って、握りの部分を前にしてマリアに差し出す。
因縁のある主従はしばし見詰め合っていた。
「思い出したんでしょ? それで、私がアナタの両親にしたことも」
「ええ」
「……好きにしていいわよ」
マリアの言葉を受けて少年は大きく目を見開いた。
一呼吸の刹那、無表情な面差しの見慣れた瞳に様々な色彩の炎が踊ったような気がした。
「どうして欲しいんですか? 僕に殺して、楽にして欲しいとでも?」
ほんの少しだけ声の調子が昂ぶっている。
そしてケネディは静かに畳みかける。
「……生きるのに疲れて、いっそサッサと罰でも受けて死にたいとでも?」
「そうかもしれないわね」
やるせない返事をするマリアに、ケネディは訊ねる。
「僕が嫌いになった?」
「そんなこと、ないわ」
「そうですか」
ケネディは銃を持ち直して、銃身の先の銃口をマリアの顔に向けて突き出す。
「だったら『僕の』だと思って、しゃぶってください」
マリアは迷いなく、口を大きく開いた。
まるで飲み込むみたいにして、トカレフ拳銃の鋼鉄の銃身の先を深く咥え込んでいた。そのまま舌で堪能するみたいに舐めしゃぶる。半眼に朦朧とした目の彼女の手は知らぬ間に自分の股間に這っている。ワンピースのスカートの中を自らまさぐって自慰に耽る。
このまま死んでも良いと思いながら、マリアはケネディの差し出した銃身を一心にフェラチオし、ディープスロートでだんだんに本気で興奮して感じ始め、目つきを朦朧とさせる。だらしなく溢れたよだれが痴女の顎を伝い、パンティまでが湿ってしまっていた。
「んっ、むうっ……」
銃を両手で構え持ちながらケネディは不思議そうに眺めている。
「んっ、んんっ!」
マリアが小さく震える。どうやら軽くエクスタシーに達したらしい。