メイドインダーク(マフィア令嬢と少年メイドのインモラル逃亡潜伏)
第三話「パンドラの記憶」(後)
1
その日の正午まで、ケネディとマリアは居間のソファで寄り添って過ごした。
普段とは逆で、ケネディがマリアに膝枕して。
今度ばかりは二人とも気持ちの整理だけで手一杯だった。
日課になっている読書や勉強どころか、冗談やちょっとした言葉を交わすことさえ憚られ、手探りで悪戯し合うようなことも控えて。
『これからどうしようか?』
それこそが二人に共通の悩み事だった。
順当に考えれば、ケネディは逃亡・潜伏中のマリアと別れて日本に帰って「普通の」生活に復帰するべきなのかもしれなかった。けれどもそれで本当に「幸福」か、そしてまともな人生を送れるかといえば、ひたすらに疑問だった。おおよそ日本社会というのは異質な者やはぐれた者にはあまり優しくないし(良くも悪くも「アブノーマル」な人間には寛容でない。たとえばケネディのパパのような多くの「見た目だけまっとうな」日本人は国内外のマフィアや悪質なロビー団体、権力や金のある腐敗勢力などには平気で顔色を窺って媚び諂うのだが、もしも本当に弱者や孤独な異端者であれば立つ瀬などありはしない。上辺だけ立派な体裁を繕っていた者たちが簡単に買収や恫喝に屈し、大挙してひたすらに日和見して逃げまくって、日本という国は「亡国危機」さえ招いたことまである)、親密な身内や集団から離れた者はどこの国や社会であっても、不利な立場に立たざるを得ない。
しばしウトウトとまどろんでから、マリアがふと言った。
「そういえば、こっちの国で通信教育の学校があったはずだけど……」
「はい」
「出席する日数も限られてるみたいだし、通ってみたら? 試験で、中途入学もできるはずだし、アンタだったら高校一年レベルからでもいけるんじゃないかしら? 途中の試験で飛び級とかも出来るみたいだし……しばらくこっちにいるつもりなら、とりあえず高卒資格だけでも取ったらどうかしら?」
学力的にはケネディ(十三歳!)の能力はもはや中学終了直前と大差がないし、偏差値が高くなくて難しくない高校でならば、難なく編入して卒業資格を手に出来るだろう(やろうとさえ思えば、この色々と「曖昧な」国でなら、日本の当局の追及を避けて通学することも出来なくはないはずだった)。仮に日本に帰って大学に行くならば、また別に受験勉強が必要になるかもしれなかったが、日本で下手な高校に通うよりもむしろ早く高校課程を一通り終えて、大学受験専門の予備校にでも通った方が逆に有利なのは明白だし(学校のランクさえ気にしなければ、この少年ならばあと二年もあれば一応は「高校卒業」できるだろう)。
ケネディはパッと明るみの差した面差しで応える。
「もし出来れば……マリアさまと一緒に、高校に通いたいです」
「そうね……」
束の間の幻影なのかもしれない「幸福」に思いをはせる。
何の保証もない「未来」は怖いけれども、どこかしらで希望を抱かなければ最後の正気さえなくなってしまいかねない。そしてその希望が偽りでないという保障もまた、ない。
そんな不安と希望に支えられて、二人はこれまでどうにか生きてきたのだった。
その日の正午まで、ケネディとマリアは居間のソファで寄り添って過ごした。
普段とは逆で、ケネディがマリアに膝枕して。
今度ばかりは二人とも気持ちの整理だけで手一杯だった。
日課になっている読書や勉強どころか、冗談やちょっとした言葉を交わすことさえ憚られ、手探りで悪戯し合うようなことも控えて。
『これからどうしようか?』
それこそが二人に共通の悩み事だった。
順当に考えれば、ケネディは逃亡・潜伏中のマリアと別れて日本に帰って「普通の」生活に復帰するべきなのかもしれなかった。けれどもそれで本当に「幸福」か、そしてまともな人生を送れるかといえば、ひたすらに疑問だった。おおよそ日本社会というのは異質な者やはぐれた者にはあまり優しくないし(良くも悪くも「アブノーマル」な人間には寛容でない。たとえばケネディのパパのような多くの「見た目だけまっとうな」日本人は国内外のマフィアや悪質なロビー団体、権力や金のある腐敗勢力などには平気で顔色を窺って媚び諂うのだが、もしも本当に弱者や孤独な異端者であれば立つ瀬などありはしない。上辺だけ立派な体裁を繕っていた者たちが簡単に買収や恫喝に屈し、大挙してひたすらに日和見して逃げまくって、日本という国は「亡国危機」さえ招いたことまである)、親密な身内や集団から離れた者はどこの国や社会であっても、不利な立場に立たざるを得ない。
しばしウトウトとまどろんでから、マリアがふと言った。
「そういえば、こっちの国で通信教育の学校があったはずだけど……」
「はい」
「出席する日数も限られてるみたいだし、通ってみたら? 試験で、中途入学もできるはずだし、アンタだったら高校一年レベルからでもいけるんじゃないかしら? 途中の試験で飛び級とかも出来るみたいだし……しばらくこっちにいるつもりなら、とりあえず高卒資格だけでも取ったらどうかしら?」
学力的にはケネディ(十三歳!)の能力はもはや中学終了直前と大差がないし、偏差値が高くなくて難しくない高校でならば、難なく編入して卒業資格を手に出来るだろう(やろうとさえ思えば、この色々と「曖昧な」国でなら、日本の当局の追及を避けて通学することも出来なくはないはずだった)。仮に日本に帰って大学に行くならば、また別に受験勉強が必要になるかもしれなかったが、日本で下手な高校に通うよりもむしろ早く高校課程を一通り終えて、大学受験専門の予備校にでも通った方が逆に有利なのは明白だし(学校のランクさえ気にしなければ、この少年ならばあと二年もあれば一応は「高校卒業」できるだろう)。
ケネディはパッと明るみの差した面差しで応える。
「もし出来れば……マリアさまと一緒に、高校に通いたいです」
「そうね……」
束の間の幻影なのかもしれない「幸福」に思いをはせる。
何の保証もない「未来」は怖いけれども、どこかしらで希望を抱かなければ最後の正気さえなくなってしまいかねない。そしてその希望が偽りでないという保障もまた、ない。
そんな不安と希望に支えられて、二人はこれまでどうにか生きてきたのだった。