メイドインダーク(マフィア令嬢と少年メイドのインモラル逃亡潜伏) ※長編・一括掲載(R指定)

 現地の「通信制の中高学校」への入学手続きは滞りなく行われた。
 数日前に電話でジョニー先生が少しだけ教えてくれたところによれば、日本の警察やらにはおぼろげに情報が伝えられており(二人で匿名で「現地語の公開学力検査」などを受けたときの記録から、バレていたのだそうで……テストの得点から「おおむね真面目かつ良好な生活態度が推測され、奇異な真摯さ」などと判断されたとか)、わざとある種の「お情け」で見逃してくれているらしかった(無責任でいい加減という見方もあるだろうが、そもそも彼らには「厳密に保護する義務」も特にないだろう)。
 それで半年くらい前に発見されて以降は様子見の扱いにされていたようで、どうやら二人の現地学校への入学を機縁に「経過観察」に付されたようだ。後日に送付されてきた書類(胃腸薬や解熱剤や害の少ない種類のピルなどの医薬品、追加の学習書なども、親切なジョニー先生がまとめて送ってくれたのだ)にはマリアとケネディの新しい正式な身分証や緊急時連絡先まで付いていた。
 そもそもマリアは「混血でロシア国籍の女性」の扱いだし、ケネディにしたところで「日本人の少年が外国で生活している」だけで犯罪者でもなんでもなく、あの宿命的な(公的な建前には原因不明で迷宮入りの)惨事の一件さえ別にすれば「放置」で問題なしということらしかった。
 二年間の試練を経て、どうにか曲りなりにも「ちゃんとした」生活に復帰できたのだ。
 今では日々に学校から与えられた課題のプリントと、将来のための自主的な勉強を日課としてこなす。そして曜日で決められた週に三日の登校日には二人一緒に、決まった制服さえもない学校に通うのだ。
 最初の登校日の帰り道で二人は慎ましい花束を買って、海に投げてお祈りを捧げた。
 それはマリアが偶然と衝動で殺してしまったケネディの両親と、悪党同士での仲間割れで横死し、あるいは日本の刑務所で絞首刑になったマリアの父と叔父の鎮魂のためのお弔いなのだった。
『僕たち、どうにか元気でやってますよ……!』
 静かな海原は穏やかに凪いでいて潮騒の音色と香りが胸を打つ。
 マリアは砂浜の巻貝を拾い上げ、年相応の少女が失った時間をコッソリ取り戻すかのように、遠い過去と未来からの囁きに耳を澄ますのだった。
 それからポツリポツリと呟くように訊ねる。
「ねえ。アンタがもし……いつかアンタに本当に好きな子が出来たら。……それでもまだ……また、『マリアお姉ちゃん』って呼んでくれる?」
「……今も昔も、ずっと、ですよ」
 不思議そうな顔のケネディの返事に、マリアは安心したようにクスリと笑った。
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