この時間を忘れる方法があるなら
『他に心配事はないか?』

「あると言ったら困りますよね‥」

最近は敬語で話そうがそうじゃなくても柊さんは特に何も言わなくなった

彼なりに、無茶な契約をした事に罪悪感があるのでは?と一緒に過ごすうちにそれを感じるようになっていたのだ

でも‥失敗は許されない‥‥

オフィスでは、莉奈として少しずつ周りに認識してもらい、柊さんのご迷惑にだけはならないように常に低姿勢で気配りや丁寧さを心掛けて秘書業務をこなしてきた

最初は社長が連れてきた人物にかなり社内がざわついていたけれど、認めて貰うには全てが自分の行い次第だという事は分かっていたからとにかくやるしかなかったのかもしれない


「恋人役ではなく、恋人としてとなると緊張しないと言ったら嘘になります」

契約してから約一月共に生活をしながらも、雇われていることには変わらない為、恋人らしくどう振る舞えばいいのか悩んでいた

お風呂に入った後、リビングの広いコの字型のソファに腰掛け温かいホットミルクにブランデーを落としてゆっくりとそれを胃に流し込んでゆく

これは柊さんが私にと作ってくれた飲み物で、疲れがたまってるのに眠れない日はよく飲むようになっていた



『‥少し練習をしないか?』

えっ?

セットされてない少し長めの髪が目にかかり、それを邪魔そうにかきあげながら私を見つめる瞳にマグカップを持つ手に力が入る

練‥習?‥‥何を?

対角線な場所に座っていた柊さんが立ち上がると、私の隣に腰を下ろし、私の手からマグカップをそっと抜きテーブルに置く

その一つひとつの動作にも緊張からか体が固まって動かない

『‥‥莉奈』

ドクン
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