藍色の溺愛〜あなたの声が好きすぎて〜

第三章 膝枕

夜風が通り抜ける度に、ベンチの上でふたりの心の距離が近づいていく。そんな気がしていた。私の壮大な思い違いでなければ。

「だめだ、急に眠くなってきた」

「ごめんなさい。ライブの後で疲れてますよね」

「大丈夫だけど。五分だけ、な」

月哉は、そう呟くと、ごく自然に私の膝に頭を預けた。

心地よい重みと体温を感じた瞬間、月哉の肩から力が抜けるのが分かった。

こ、これは、いわゆる、膝枕だ。

普段はライブハウスで見上げている月哉の顔が、今はすぐ目の前にある。

繊細で美しい少年の面影と、大人の男性が持つ危険な色気を同時に纏っている。

私のギンガムチェックのロングスカート越しに、月哉の体温と呼吸、髪の質感が伝わってくる。

その髪に思わず触れたくなって。

月哉がしてくれたように、私も月哉の前髪を撫でると、月哉は、心地よさそうに口元を緩めた。

月哉が今、私の膝の上で、そっと目を閉じている。

長い睫毛に、切れ長なのに綺麗な二重。私は溜息が溢れそうになって、一瞬だけ、息を止めた。そして、またゆっくりと呼吸を繰り返す。月哉の呼吸に合わせて。

風に揺れる葉音だけが、二人を包む世界を満たしている。

今、この世界には私たちふたりしか存在していないような、そんな感覚になった瞬間、月哉が気持ち良さそうに目を開けた。

下から覗き込む悪戯っぽい視線。

私の頬が火照る。いや、身体中が熱を帯びてゆく。

「やばっ、このままだとほんとに寝ちゃう」

月哉は、そう言うと、体を起こした。

やばいのは私の方だ。このままだと、高鳴る心臓の音が月哉に伝わってしまいそうだったから。私は、ちょっとだけほっとした。
 
「これじゃ、俺が寝かし付けられてる保育園児じゃねえか」

月哉もこんな言葉遣いをするんだ。気を許してくれている感じがして、すごく嬉しかった。一気に親密感が増した。

「保育園児に、こんな魅力はありません」

嬉しすぎて、私が突っ込むと、月哉は「だろうな」と、キザに冗談交じりで答えた。

「そうだ、もう少し時間ある?」

「あります」

思わず、即答してしまう。
月哉がふたりの時間をまだ終わらせたくないと、時間を繋ぎ止めてくれている気がした。
なんて、私の思い過ごしだろうか⋯⋯。
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