【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
「山崎さんは今、先生の矢継ぎ早な質問によって、激しい混乱と恐怖を覚えています。山崎さんのこの手の震えが見えませんか? リウマチはストレスと密接な関係にあります。精神的な緊張や過度なストレスは、自律神経を乱し、リウマチの激しい痛みを誘発する原因になるんです。今の先生のやり方は、被介護者の身体に直接的な苦痛を与えているも同然です」
福村は、麻里の非難の言葉を聞きながら、僅かに眉をひそめた。
(福村先輩にとっては、こんなことで中断されるのは納得がいかないでしょうね)
彼の論理の世界では、本人が意図的にやったという証拠こそがすべてだ。
対象者の「リウマチの痛み」などという肉体的な事情は、考慮の対象外だったのだろう。
しかし、彼は即座に論破することはしなかった。
「この調子だと全く進みませんね」
「そうですね。しかし先生の事実の並べ方は、ここでは凶器になり得るんです。やり方を変えなければ進まないでしょう。ご理解ください」
麻里は福村から視線を外すと、すぐに山崎の方へと向き直った。
椅子の位置をさらに山崎に近づけ、彼の目線に合わせるように少し腰を落とす。
「山崎さん、大丈夫ですよ。ゆっくり深呼吸をしましょう。吸って、吐いて……。そうです、焦らなくていいですからね」
麻里は優しく山崎に告げる。彼に確かな温もりを伝えるように、震える両手を自分の両手でそっと包み込んだ。
彼の両手から、震えが小さくなっていくのが伝わってくる。
「佐倉、さん……私は、私はね……」
「はい。大丈夫ですよ、分かっていますから。まずはお茶を一口飲みましょうか。温かいですよ」
麻里はテーブルの上から緑茶の湯呑みを引き寄せ、山崎の手へと添える。
山崎は麻里の手に導かれるようにして湯呑みを口元に運び、ゆっくりとお茶を飲み出した。彼の喉が上下するたび、荒かった呼吸が徐々に規則正しいものへと戻っていく。
麻里がその背中を優しく、一定のリズムでさすり続けると、山崎の瞳に先ほどの穏やかな光が少しずつ戻ってきた。
「……すまないねえ、佐倉さん。なんだか、急に頭の中が真っ白になってしまって……。何を話せば良いのか……」
「いいんですよ、山崎さん。ゆっくりお話しすれば大丈夫ですからね。福村先生は悪い人ではありませんから」
「あぁ、そうかね」
(良かった。落ち着いてきて、痛みも引いたみたい)
山崎の背中をさすりながら福村をちらりと見ると、彼は黙ってこちらを見つめていた。
眼鏡の奥の瞳が、複雑な感情の光を帯びて揺れている。彼が何を考えているのかは分からなかった。
「……福村先生。山崎さんはだいぶ落ち着きましたから、再開しても問題ないかと思います」
麻里が告げると、彼の瞳から迷いが消えていく。
「では」
「ただし、先ほど申し上げた通り、山崎さんが答えを導き出せるように質問してください。一方的な決めつけではなく。これ以上威圧的な追及が行われた場合、今日の面談の継続は難しいでしょう。二度も大きなストレスにさらせば、山崎さんにどんな影響があるか分かりませんから」
福村はしばらくの間、麻里の真っ直ぐな瞳をじっと見つめ返していた。やがて、ゆっくりと視線を落とし、手元の書類を一枚めくった。
「……分かりました。配慮が欠けていたことは認めましょう」
福村は、麻里の非難の言葉を聞きながら、僅かに眉をひそめた。
(福村先輩にとっては、こんなことで中断されるのは納得がいかないでしょうね)
彼の論理の世界では、本人が意図的にやったという証拠こそがすべてだ。
対象者の「リウマチの痛み」などという肉体的な事情は、考慮の対象外だったのだろう。
しかし、彼は即座に論破することはしなかった。
「この調子だと全く進みませんね」
「そうですね。しかし先生の事実の並べ方は、ここでは凶器になり得るんです。やり方を変えなければ進まないでしょう。ご理解ください」
麻里は福村から視線を外すと、すぐに山崎の方へと向き直った。
椅子の位置をさらに山崎に近づけ、彼の目線に合わせるように少し腰を落とす。
「山崎さん、大丈夫ですよ。ゆっくり深呼吸をしましょう。吸って、吐いて……。そうです、焦らなくていいですからね」
麻里は優しく山崎に告げる。彼に確かな温もりを伝えるように、震える両手を自分の両手でそっと包み込んだ。
彼の両手から、震えが小さくなっていくのが伝わってくる。
「佐倉、さん……私は、私はね……」
「はい。大丈夫ですよ、分かっていますから。まずはお茶を一口飲みましょうか。温かいですよ」
麻里はテーブルの上から緑茶の湯呑みを引き寄せ、山崎の手へと添える。
山崎は麻里の手に導かれるようにして湯呑みを口元に運び、ゆっくりとお茶を飲み出した。彼の喉が上下するたび、荒かった呼吸が徐々に規則正しいものへと戻っていく。
麻里がその背中を優しく、一定のリズムでさすり続けると、山崎の瞳に先ほどの穏やかな光が少しずつ戻ってきた。
「……すまないねえ、佐倉さん。なんだか、急に頭の中が真っ白になってしまって……。何を話せば良いのか……」
「いいんですよ、山崎さん。ゆっくりお話しすれば大丈夫ですからね。福村先生は悪い人ではありませんから」
「あぁ、そうかね」
(良かった。落ち着いてきて、痛みも引いたみたい)
山崎の背中をさすりながら福村をちらりと見ると、彼は黙ってこちらを見つめていた。
眼鏡の奥の瞳が、複雑な感情の光を帯びて揺れている。彼が何を考えているのかは分からなかった。
「……福村先生。山崎さんはだいぶ落ち着きましたから、再開しても問題ないかと思います」
麻里が告げると、彼の瞳から迷いが消えていく。
「では」
「ただし、先ほど申し上げた通り、山崎さんが答えを導き出せるように質問してください。一方的な決めつけではなく。これ以上威圧的な追及が行われた場合、今日の面談の継続は難しいでしょう。二度も大きなストレスにさらせば、山崎さんにどんな影響があるか分かりませんから」
福村はしばらくの間、麻里の真っ直ぐな瞳をじっと見つめ返していた。やがて、ゆっくりと視線を落とし、手元の書類を一枚めくった。
「……分かりました。配慮が欠けていたことは認めましょう」