【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 山崎の口から絞り出されたその告白は、居間の空気を凍りつかせた。
 麻里の脳内では、先日山崎が言っていた言葉がようやく結び付いていた。

『私に出来ることは、これしかなかった。あ、あのときは……そうするしかなかったんだ』

(やっぱり……)

 山崎も犠牲者の一人なのかもしれない。
 そう感じていた麻里の直感は、このためだったのだろう。

 麻里は脱力している山崎の手に触れ、少しだけ微笑んだ。

「山崎さん、お話ししてくださってありがとうございます」

 その一方で、福村は眼鏡の奥の目を極限まで細め、手元の膨大な資料を睨みつけていた。
 その綺麗な眉間には、深い縦皺が刻まれている。

「山崎さん。あなたが誰かに脅迫され、意図しない形でデータを流出させられたというのなら、それは本件の前提を根底から覆す重要な事実です。ですが――」

福村は一度言葉を切り、ローテーブルの上に置かれたシステムログの紙を指し示した。

「法廷で戦うためには、貴方の言葉だけでは足りないのです。現状、貴方が情報流出をさせたという確固たる証拠だけが、ここにはあります。それが強制的なものだったと示す客観的な証拠はありますか? 例えば、脅迫状や、相手からの通話履歴等です」
「証拠……」

 山崎は困惑したように、白髪の混じる頭を両手で抱え込んだ。その表情には焦燥感と落胆が滲んでいた。

「当時、私は必死に記録を残していた……。あの薄汚い男たちが我が家にやってきて、私に無理難題を突きつけていった記録を……。私は、家族を守るために、何が起きたのかをすべて……日記として、書き残していた。だが、今となってはどこにあるのか……。あぁ、思い出せない。見つからないように、いつか告発するために……そう思っていたはずなのに……。私の頭はもう、壊れかかっている」

 山崎が消え入りそうな掠れた声で漏らした言葉からは、後悔という言葉では言い表せない程、悲しみが伝わってきた。

(山崎さんが嘘をついているようには思えない。もちろん、記憶障害による思い込みの可能性もあるけど……)

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