【長編版】冷徹弁護士の甘い執着〜八年前の初恋相手に、もう一度捕らわれる〜
 視線を泳がせた麻里は、居間の入り口にビジネスバッグが落ちていることに気がついた。
 先程、福村が駆け寄ってきてくれたときに落としたのだろう。
 麻里はそれをそっと拾って、福村の前に置く。

「今日……ご覧の通り、面談は難しいかもしれません」
「そうだな……。実は先日の山崎さんの証言が気になって、同業の他社の業績を調べたんだ。ミツルギが取りこぼした仕事をどこが持っていったのか……。もしかしたら、背後に別の企業の思惑があったかもしれないから」
「確かに……山崎さんを脅し、ミツルギ重工を陥れて利があるのは、同業他社ですね」

 福村はバッグから書類を取り出した。

「八年前のあの事件以降、急激な成長を遂げた同業他社はなかった。だが、この『シンセイ開発』の取引先が少し気になってな。……事件以降、ミツルギから手を引いていった取引先の六割がシンセイ開発に仕事を受注している」
「それはつまり……」

 麻里が口を開いた時、隣でガシャンと音がした。
 山崎が湯呑みを落としたのだ。幸い湯呑みも割れていないし、こぼれたお茶もわずかだ。

「山崎さん? 大丈夫ですか? すぐ拭きますからね」

 しかし麻里が声をかけても山崎は反応しない。
 ぶるぶると震えながら両手で頭を抱えた。

「シンセイ、開発……? うぅ……」

 (パニック症状が再発しかかっている?)

 麻里はすぐさま山崎に寄り添い手を握った。
 すると、福村が身を乗り出した。

「シンセイ開発について、なにかご存じなんですか!?」
「ああぁっ……あそこは……奴ら……ううっ」
「奴ら? 山崎さんを脅した人物の関係があるのですか?」

 矢継ぎ早に質問重ねる福村の言葉に、山崎は頭をかきむしった。

「福村先生! お止めください!」

 麻里は思わず強い口調で福村を制した。

「大丈夫ですよ、山崎さん。今はもう大丈夫です」
「だいじょう、ぶ……? 私は……家族を……会社を裏切って……」
「ご家族は元気ですよ。ほら、この間、梓さんがお手紙を送ってくれましたよね? とても元気に幸せに暮らしていますよ。……誰も山崎さんを責めたりしませんよ。山崎さんは、大切なご家族を一生懸命守られたんです。何も間違っていません」

 麻里は氷のように冷たくなった山崎の手を握りながら、ゆっくりと話す。
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